第23章 突然ですが、さようなら
瞬きの瞼を開ければ顔に貼り付く何か。戦いの邪魔だ、早く回復して復帰を、なんて考えてその異物を顔から退かそうと持ち上げればそれは布だった。あの重い痛みもない、回復したっけと片手で触れる腹は制服じゃない触り心地。
薄い布越しに見るのはいつか見た景色。
悟の瞳が青空であるとしたら、私が見てるこの景色は天変地異でも起こりそうな、奇妙な夕焼けが顔に当たるスクリーン越しに見える。顔には布…額から白っぽいモノが垂れ下がり、取り付けられている。それはいつ?
制服よりも重たい服に少し足がもつれて。足元を見ようとしたら、それは着た事もない白い着物で。
『あ……えっ…?』
周りには白い服を着た、先祖たちが居て…中には真っ赤な服の鎹も居たけれど。
私はいつの間にか、無意識で領域展開してたのか。ちょっと混乱しながら、相手のさっきまで対峙してた呪霊を探すもここにはあいつはいなくて。
じゃあ、巻き込む事なくひとりで領域展開をしてたって事?ならいつまでもここに居る意味なんて無くない?
……帰らなきゃ。
けれども私が何度も帰ろうとしても私は帰る事は叶わなくて。
とん、と手を乗せる、その人物は私の母。首をゆっくりと左右に振った。なんとなく言いたいことは分かるけれど私はそれを認めたくない。
「戻ろうったって戻れないよ。私もやった事があった。体が死んでちゃ魂は戻る事が出来ないんだよね」
認めたくない事を指摘された。私が既に死んでいるという事。理解したくない、私はまだやれる、生きてる。まだまだこれから生きていって、歳を取ってから死ぬんだから。
この歳で死ぬ、そんなワケがないのだとその指摘を全否定したくて、ははっ、と笑みが出た。こんな所で面白くもない冗談なんて言わないでよ。滑ってて全く笑えないんだけれど?
『死んだ………?わたしが…?笑えない冗談、言わないでよ……』
「冗談なんて言ってないよ。ハルカ、あなたはもう死んで、この領域の概念となったの」
理解が出来ない私を母、リョウコは優しく抱きしめる。
体温が分からない。けれども何故か温かいっていう感覚だけを錯覚しながら私も母にぎゅうっとしがみつくように腕を回した。