第23章 突然ですが、さようなら
目の前の呪霊に表情など特に無い。目は魚類のようなまるい、小さな目。口は人の口を縦に回転して配置したような、左右にぱか、とうっすら開いてる。
……気持ち悪い造形だよ、と眉を顰めつつ、距離に注意する。
「あれ。殺し切レテないヤ、ナンデ…?なんで、なンデ……?
オマエを殺したイ、殺しタイ殺シタイ殺シタイ……その炎、消しタイ、消シタイ消シタイ消シタイ…殺、ス…」
ゾク……と、私に対しての殺意を感じる。両手を構えた。振りかぶるならその私に触れる瞬間に"罰祟り"で一発首をもいでやる。
来るなら来い。ふん、と笑った所でピタ、と止まる動作。弓のように振り絞るように弧を描いてる。
「あ、は……アハッアハッアハッ!」
『その笑い方キモいんだけど……』
「殴って殺そうッテ思ったケド。すぐに死ヌより痛めつけタイ……オマエはコウスル事に決めタ」
す、と柱に隠れた呪霊。このやろ、とその逃げた呪霊を支柱を中心に追おうとしたけれど。
その支柱はドォン、という音と大小細かく粉砕されたのを目に焼き付けた。
ドッ、と腹部にめり込む重いような痛み。大きな支柱の瓦礫が簡単に腹部をめり込ませて、さらに隠れてた呪霊が追い打ちをかけるようにその瓦礫を粉砕するように殴った。
『……っ(声も、うめき声でさえ…)』
人間なんてちっぽけなんだな、と思うほどに、吹っ飛ぶ大きな瓦礫に体を僅かに背後へ押され、呪霊の拳によって吹っ飛んでいく私の体は必死に治そうとしてもめり込む原因を外さない限りは治し切る事はなく。
さっきは心臓やら肺を突き刺されて、解放された瞬間に治せたよ。だから生きてられた。
今は腹部や胸部にめり込む瓦礫と拳による威力があらゆる臓器を傷付けてる。
それでも私は頑張って生きたんだと思う。諦めないで、治し続けたんだって思う、けど。
……奇跡は何度も立て続けに起こらないってのも知ってる。
くじ引きで一度当たりが出たからって、二度も三度もずっと当たりを引く可能性なんてない。運が尽きる、という言葉を理解してる。
瞬きをするように、目を閉じた。誰かに背後から抱きとめられた感覚を確かに感じた。仄かに良い匂いもした、けどその人物を確認することはもう叶わない。