第23章 突然ですが、さようなら
216.
触れさえすれば私の勝ち。首を切り取る事なんて造作ない。連発するんじゃなくて、たった一発だしこの状況から形勢逆転出来る。
……けど、私の中で本能が全力で警鐘を鳴らしてる。距離をとりあえずは取れ、と。相手の呪霊は悟よりも背丈が大きい。細身で弱そうに見えても高さのある相手。手足は胴体と同じく細長い、足も手もそれぞれの指も長くて。
目の前でその細身がボコ、ボコと少しずつ膨れ上がってる。急激なその筋肉、どっから湧いたんだか。
……ああ、なるほど。もしかしてコンパクトな姿になって死体に潜り込み、寄生虫みたいに宿主である補助監督生の死体を動かしてここまで来たんだ。
『……っ、』
触ればさ、首なり腕なりあっという間に弾け飛ばせるよ…?でも相手がさ、それを許しちゃくれないやつだ。油断させる事ができる人間じゃない。相手は呪霊、何をしてくるのか分からない。
足元に転がる補助監督生はもう気にしなくたって良い。死んでるし、私自身人を守ってる余裕もそもそもないしね。
一歩ずつ後ろへと後退する。
それを見た呪霊も大きな一歩を繰り出した。なにそれ、その幅は卑怯でしょ、なんて思った瞬間だった。
ズンッ、と鋭い指先が私の体を貫いた。場所は胸、高専の制服は呪いに耐久性がある素材なんて聞いたけど、ワイヤーとは比にならない太い指は背中にまで痛みを与えてた。
『あ……がっ…ぁっ』
中が凄く温かい。じわ、と体の奥で液体に満たされてる感覚。
今ならば相手に"罰祟り"をするチャンスだけれど今はそれどころじゃない…っ!敵を屠るよりも生きる事を優先しなくちゃ!少し焦りながら、その指が引き抜かれた瞬間に意識を胸に集中した。
視界の中、胸の中心からドボッ、と血が溢れたのを見た。鮮血だった、背中も生暖かい。今は集中して生きることを優先しなきゃ!
『……っふー、ごぼっ、』
一度咳き込むと口から真っ赤な液体が飛び出す。自分自身の体液で溺れそうになって、ゴボ、ゴホッと数度咳き込めば燃えるように喉が熱く感じた。
でも、これでさっきやられた傷は塞がった、多分重要な場所から治してるから大丈夫なハズ……見えない位置で治しきれたか分からないけれど治ってる事を祈りつつ、視線を上げた。