第23章 突然ですが、さようなら
支柱の影でビチャ、ビチャビチャ、と液体がぶちまけられる音がしてぞわっ、と鳥肌が立つ。見えない所で何がどうなってるのか想像したくない。
呪霊としても弱いやつじゃなさそうだし、低級のように壁抜け出来ないはず、と支柱を中心にそっと様子を見ようとじりじりと回り込もう。右?左?ちら、と左側に頭部が見えたから右側へと進む。
じり、じり、と緊張感が走る中、大きな駅だというのに立ち入り禁止区域にしたもんだから私と不審者の居るここはやけに静かで。遠くで改札を通る音が小さく聴こえた。でもここには助けを求めようにも対応出来る呪術師は居ない。
支柱を中心に右へとにじり寄る。私のブーツの音が鳴らないように気を遣って。反対側からはヒタ、ヒタ…という素足のような足音が聞こえる。靴の音じゃない、という事は"なにか"があったって事。より緊張感が高まる。
私の視界に全貌は見えないけれど。足元に倒れる、人の一部分を見付けた。
そっと屈みながら、指先を彼に触れる。具体的には首に。触れながら治療を試みるも治る気配はなく、頸動脈に触れた指先に生きてる鼓動は感じられない。死んですぐじゃない、死んでからしばらく経ってる。体温は低く、動いてたのが嘘みたいに硬く感じる。
そして大きく顎が外れた口元。内側からなにかを吐き出したみたいで、口内から外部へと唾液や血液で汚してる。床に大量の血液、さっきのビチャビチャ音はこれだな…。
……となると、この補助監督生。死体の状態でここに…?考えられるのは支柱の反対側の呪いが…。
考えるのを中断して、視線を下から支柱へと戻す。
ヒタヒタ音を立ててた主はもう音を立ててない。音を立てないからって都合よく居なくなったワケじゃないのはさすがに分かっちゃいる。
近付く代わりにしっかり私の直ぐ側に立ってこちらを覗き込んでいる黒くて丈のある、細身の呪霊が居た。