第3章 呪術を使いこなす事
22.
──呪高へと悟に勧められ居候を始めて、4日が経った。
『お、』
「あ」
今日の治療相手は伊地知というメガネの男性。治療のため、座った伊地知の膝の上の手の甲に、私は手を重ねていた。
治療も経験を重ねていけばコツが掴めて来た所。
呪力を呪術として、意識的に使えている、という感覚。それは無意識にやっていた作業を意識的に使えた実感。
『使えている……のかな?これは』
治療後、自分の手の平を見て呪術を使いながら見つめる。
いつものように着いてきている悟はアイマスクのままで私の手を覗き込んで見ている。その腕の中には私から預けられた、ツカモト。コアラである2号ではない。初代という、青いパンチンググローブを着けた黒いクマが眠っている。
…こいつは可愛い見た目でちょっと乱暴だ。そのツカモトを持った悟はにこにこしながら頷き、人差し指を立てた。
「うんうん、出来てるね。よし、じゃあ次の段階として自分の中でこの感覚と同じ感覚をぶつけるように、反転術式の練習をしてこうか」
伊地知の手から手を離れたので、ふたりの会話を聞きながら今は何も無いスネを手で触れて完全に治ってるのを確認した。
「……反転術式、出来るようになったら五条。ハルカをここに入学させるようにと学長に掛け合うのか?」
その話は少し前に学長と話をしたなぁ、とこれから先の未来を考えながら私は伊地知の側にしゃがみこんだ。
今まで呪いが見えなかったのでまともに働けなくて、バイトをしていた。だからこその実家に居たっていうのもあるけれど…。呪術師となって働けばなんと、他人を治療する呪術師が少ないから重宝されるのだって聞いた。しかも呪術師は給料が結構良いと。それはなるっきゃない!と私は思う。
今の私が反転術式を使えるようになったとしてそれですぐに呪術師として働けるってものじゃない。専門職だからこその専門学校…呪高を学び経て学歴を付けなくてはいけない。
それから、自分ではなく人の負傷を吸収している為に明らかに髪の白の面積が増えている。ただ吸収するだけなら良いけれど(式髪およそ1本で人ひとり分を身代わりしているのではないか?との事)格の違う呪霊などに触れるとごっそり式髪が消費される。