第23章 突然ですが、さようなら
気まずそうな表情をしつつ口を動かす悟。
ああ、認識してたのは焼きチョコだったか~!
『んー?ブラウニーに見えなかった~?じゃあゴミ箱にエチケットタイムしとくかー?』
「やだ、もったいない!」
悟の腕から開放されて後ろを振り向けば、トレイの上で途中まで切ってた失敗作をひょいひょいと食べてる悟。
吐き出すようなまずさではないはずだけど。失敗作をそうがつがつ食べられるというのは恥ずかしいけれども嬉しくもある…。
『今回ビターな出来だけど……次こそ失敗しないで作ってみせるから。目指すは悟の誕生日ケーキ、くらいには野心を燃やしてるよ』
……今年中に練習を重ねないと経験値を詰めないから十二月に間に合うのかが不安だなあ。
そんなに悟の口に合うもんかなあ、と私もまだ熱の取れてない、切ってあるものを摘んで口に入れてみる。ほろ苦い失敗の味と途中までは成功してた甘い風味。こういうお菓子だと言われたら受け入れられる。なんというか…甘さ控えめ、が好きな人に受け入れられるお菓子と言いますか…。
キッチングローブを嵌めてトレイを取り出す悟は、鍋敷きに手を伸ばしてテーブルに置いた。キッチングローブを外して、にっこりと微笑んで。
「ハルカが僕に作ってくれるんだから出来たものが何であれ、美味しいに決まってるでしょー?ケーキとか楽しみに待ってるよ。絶対に隠し味の僕への愛情入ってるもん!」
『……自分で言ってて恥ずかしくない?私は充分恥ずかしいんですが…』
口元を隠しながら、耳が熱いような気がして。次こそは、と意気込みながら手をばんばん伸ばしてる悟の手首をそっと掴んで。
『夕飯に響くから今食べないで後で食べなよ、』そう注意したら彼はまるで子供みたいに頬を膨らませて拗ねていた。