第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
多分、子犬のような目で見てるんだと思う。見えたらの話で今はアイマスクで隠れていて私を見上げる悟は、今は器用にも口元だけで欲しがってる表情を出してる。
『駄目。悟の場合一回じゃ終わらない…っていうか、その一回すらも時間迫ってるんだし。……えっちは次回にしよ?』
時が止まったように固まった悟。口元がニッコー!とご機嫌になって膝を着いていた悟は勢いよく立ち上がり、そのままに私に抱きついた。
『ふがっ!?』
鼻が胸筋に押しつぶされて変な声出た。
そんな事は気にすることなく、悟はぎゅっと抱いた腕、背中を何度も撫でてる。
「うん!いっぱいハルカとえっちするぅーー!昨日みたいな駅弁もっとしよーっ!ゴムもたくさん買ってくるからねっ!
僕、オマエの為に仕事もえっちも超頑張るからっ!」
たちまち元気な声を出す悟。朝からのこの声量よ。
うるせー!周りに聴こえたらどうすんのっ!おしゃべりな騒音レベルの口元を片手で抑えて、『しーっ!』と制止した。
彼は抱きしめた腕を解き、軽い荷物を持って「行ってきます!」と手を振ってる。そんな早朝からとても元気な彼を、私からも軽く手を振って『いってらー』と送り出して。
……ちょっとだけ二度寝してから朝の支度しよ。
ふぁ…、とあくびをして私はまだ暖かさの残ったベッドに潜り込んだ。
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それはまたもや授業中だった。ブブブ、と私の携帯に誰かから連絡が入って板書の為に持っていたペンを置き、入れ替わりに私は携帯を手に取る。
画面には登録してない電話番号。じゃあ新規だなあ、誰なんだろ?と通話をタップして耳に当てる。
さっきまでチョークで現代文を書きなぐっていた教師の手が止まり、新田もぴた、と動きを止めてる。彼らなりの心遣いらしい、状態だとかを聞き漏らさないようにって。