第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
そう言ってやればもぞ、とうずめた顔を離し、アイマスクをわざわざ下げて表情を晒す悟。この人は自分の造形美ってのを自覚してるからたちが悪い……こうやって上目遣いで私を見てる。甘えるような瞳の威力は強力で思わず口の中をキュッと噛んでこれ以上甘やかしちゃ駄目だ、と自分に言い聞かせた。
「そうだけどさあー…!僕としては奥さんともっとイチャイチャしたかったのっ!普段から足りないのに京都では一日おきって何よ?……ハルカ失調になっちゃうよ、僕!?」
『んな栄養失調みたいに言うな…』
顔を上げて文句を言い切った悟のアイマスクをぐいっ、と持ち上げて装着した。六眼はそういう攻撃を持ってるわけじゃないのに造形美での攻撃してくる、なんだNARUTO界の瞳術使いの一種か、そのきゅんとくる攻撃は。
アイマスクをすれば見た目が少し先生モードに戻った悟。でも中身がまだ出勤モードに覚醒してないわけで今度は、わっ!と半べそをかいて私に飛びつく。もう一度腹に顔を埋めてぎゅう…、とキツくしがみつき、アイマスクを装着済みなその逆立てた髪を繰り返すようにもふもふと撫でた。
『これ!もー……こうしてるうちに新幹線に遅れるよ、いつまでも駄々捏ねしてないの。そんな永遠の別れじゃあるまいし』
どうせすぐ会えるんだし、会ってる今が私達の終わりなんじゃないんだから。そこまで言えばしがみつく力も少しだけ弱まり、埋める顔を離れて見上げてる。といっても目元はどんな表情かなんて、口元でしか判断出来ないんだけれど。
口がちょっと尖りながらこの事態を渋々受け入れるようになった彼。
「はあー……仕方ないなあ。一家を支える大黒柱でもあるもんね、僕。じゃあ、教師として…、また特級呪術師の任務として向かう多忙な旦那さんに、奥さんからの愛のこもったキスをしてくれるよね?」
おっ、出発する気になったな!?このまま送り出してしまおう、と私はその気合いを表面に出さないように極力気をつけつつ(表面に出したらふりだしに戻って悟の機嫌を取らなくちゃならない)『はいはい、』としがみつく悟を少し剥がして、珍しく私を見上げるその顔を両手で挟み、キスをした。
離れた瞬間にゆっくりと彼の柔らかさや体温が失われていく唇。その唇が少し弧を描いて囁く。
「……軽くえっちしてっちゃ駄目?」