第3章 呪術を使いこなす事
21.
ぬいぐるみを抱いて私はパイプ椅子に座る。
ギチッと音を立てて座り、コアラを抱き直すと暴れていたツカモト2号はすや…と寝息を立て始めた。触れた手で一定を意識しながら家入の何か作業をしているのを見ていた。
何か道具を揃えている……準備が終わったのか、トレイを持って家入は私の側へと寄った。
「じゃあ、白髪化した頭髪と地毛、血液……式髪をちょっと調べるから。あと、頭皮も一部採らせて貰うよ?」
そう言いながらすぐにちく、とした刺激がある。
手際が早いようです…、ぷち、ぷち…と毛も抜かれたし。
「はい、とりあえず終わり。もしメカニズムが分かれば何かの役に立つかもしれないからな」
トレイにラップを掛けて机に置くと、デスクのキャスター付きの椅子に座る家入。
くる…、と少し回転させ、やや前傾姿勢で私を覗き込む。
「……で、五条とはどう?あいつ、表面上の恋人って言ってるんだろう?」
うっ、と言葉が詰まる。突っ込んでくるのか、こういう話題。
きょろきょろと周囲を見渡し、手で待ってて下さい、と意思表示をしてから、私は足音を立てないようにゆっくりとドアの側へと行く。
手を付けてそっと開けて通路から顔を出してきょろきょろと確認をした。よし。デジャヴみたいだけど。
席に戻ると、私は声を潜めて家入への答えを伝えた。
『父親の祖母の家に行くなという理由に対して使った、恋人と旅行っていう表面上の話を、祖母の前でも続けたんですけど……、』
「……ふーん」
ここ、3日ほどの話。それでも表面上だという話が表面上じゃない気がしてきていた。
だからこそ悲痛だった。家入は親身に聞いてくれている。
『しばらくこのままで、互いにも利益があるからと。でもこの関係性が表面上じゃない気がして困惑はしてます』
「表面上じゃない、と。どういう?」
口ごもる。それ以上はこういった場所で言うべきじゃないけれど。
『表面上とは言いますが、だんだん遊びになって来てるんだろうって。私は、表面上という線を引いた状態であれば祖母からの許婚問題が助かるんですけれど、』
「…許婚?」
『私に充てがわれた相手が居るんです。でも許婚に関しては堂々と振ってやりましたよ、その表面上の恋人がその場に居合わせた事もあって。
私は許婚と共にあの家で血族の道具として死にたくないですし』