第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
『……ええと、まず足首の状態を確認させてくださいね…』
ちら、と確認しつつまあ見た目には出てないし。パッと見腰も見た感じ異変はなく。
そのままに衣服を整えた後に腕に手を触れて吸い取っていく。大怪我とは言わずとも、些細な怪我も放置すれば後々面倒な事にもなるし……。ただ、これ腰痛で通われたら困るぞ?
『はい、終わりました』
「おお、かなり楽になった……」
ばっ、と立ち上がる学長。腰に手を当て、ぐりんぐりんと左右に体を捻って調子を確かめている。
立派に生えた白眉で表情は良く見えないけれどまあ…喜んではいるな、と苦笑いを浮かべつつ。
「うむ………よし。また腰痛、じゃなかった、怪我をした時は宜しく頼むぞ?」
『学長、本音出てますよ……出来れば珍しい症状だと良いんですけれど…まあ、腰痛でもなんでも来て下さい。呪力も溜まりますし、溜まりすぎる前に発散してしまえば良いですし』
具合を確かめていたのをピタ、と動きを止め、頷く学長。
「では、遠慮なく……しかし腰痛を治す目的で通うのもなあ…。五条悟にバレた時が一番面倒くさいしな」
顎に蓄えられた髭を片手の指先でいじりながら何か考えている学長。
まあ、煽リストの悟ならバレた瞬間から超絶煽りに掛かるね。間違いなく言い切れる。聞かれたら言うけれど、こっちからわざわざ報告するまでもない…かな、この件については。
顔を上げて、ちら、と見えた瞳が私を見た。
「……次から何か手土産でも持ってくるか」
買収だ。悪いんだ。イケナイコトだ…!
…と、思わず悪い顔をしちゃった気がするんだけれど。
『あ、是非。食べ物でもなんでも……お酒だとなお良しです』
「わりと図々しいな……こっちが言えた事ではないがな。まあ、そういった土産も検討しようかの」
よーっし!次回が楽しみだなあ。ハムとか持ってくるかな…日本酒とかでも……。
身軽そうに医務室を出ていく背を見て、まさか毎日通うってわけじゃないよね…?と思いつつ。お土産はでも楽しみにしつつ。
『……ああ、そうだ。治療証明書書かないと教室このまま帰ったら忘れるわ、』
新たに引き出しから一枚用紙を取って机に向かい、私は本日三件目の治療証明書を書いていった。