第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
205.
京都校初日は少しばかり騒々しくて濃厚な一日が過ぎていき、ようやく学校が終わっての放課後になった。
携帯で歌姫に連絡してある。昨日来てたって事は直に言ってあるけれど、今日の悟が来るって事を。
多分、明日かもしくは三日後辺りの悟に出くわさない日にご飯なり飲みなり誘えば高確率で受け入れてくれそうだけれど。
机に入れていた筆記用具を鞄に突っ込む。
『新田、また明日ね』
「ん!また明日。お疲れーっす」
『お疲れー』
軽く手を振ってすぐに教室を出て。一度部屋に戻ったら食材を買い出しに近場に出かけよう……あ、まだこっちでそういうオフに声かける人がそんなに居ないぞ、私。
生徒であれば少し会話をしてる、けれども連絡先を交換してるわけじゃない。怪我をした場合一方的に連絡が来るだろうけれど(連絡先流出してんのかな、東京みたいに張り出されてないのに連絡来てたんだけれど…)
悟来るってのに何も用意出来ないんだけれどどうすっか、と考えながら寮へと歩いていく。外で食べようって誘って、帰りに食材を買ってくるのもアリかも。そうしようかな…。
まだ来て無いはずだよね、と思いながらも自室のドアの鍵を開けようとしたら開いてた、という事は、だ。
ドアをガチャ、と開けた瞬間からふわっ、と甘じょっぱいなにかの料理の香りが部屋に漂ってる。電気も着いてるし。
奥からとすとすとす、と速歩きで近付いてくる人物。にっこりとご機嫌そうな笑顔の男。
「おかえり!ごはんにする?おふろにする?そ・れ・と・も…さとる?」
『……待って、さっき放課後になったのになんで居るの?』
顔はいつも通りとして。その長身の胴体にはまさかまさかの薄ピンクでフリルの着いたエプロンをして、その大男の体に君臨する頭部は黄色い声を掛けられる程の整った顔。裸眼。片手にはおたま。
……なんで??ギャップというかこれはアレだぞ、マリオ3の失敗した絵合わせレベルの違和感だぞ。
頭がちょっと着いていけないんだけれど……と悟を見上げながら、後ろ手で部屋の施錠を済ませて。
私が何故悟がここに居るのか?って質問にぷく、と頬を可愛らしくわざと膨らませた悟。ほんの一瞬だけ、ほんの一瞬だけど女児に見えてすぐに28歳の長身の男だと現実に戻されたわ。