第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
専門知識と実際に呪いと対峙したり呪具について学んだり、体術だけってしてくれれば良いのに。そういうのを希望したくとも我儘はそうは通らない。
……数学は別として、楽しいから良いけれど。
手の甲で口元を覆いながら歌姫は笑う。
「ふふっ、一度通過してるのにね。そこは一般教養くらいはパスしてあげれば良いのにね……。
それじゃあ、私は別のクラスに行くから、しっかりとやりなさいよー?」
悪戯っぽく笑った歌姫に苦笑いで返す。
そして歌姫は「それから、」と声を潜めた。
「……滞在中に絶対に飲みに行きましょうね?」
『モチのロンです、ハイ!』
「そこの元気は良いわね……」
ずびしっ!とサムズアップすると同じく返す歌姫。その背を見送り、一年の教室のドア前、そのまま中に入った。教室内にはひとりの男子生徒が居る。
事前に聞いてるのが、東京に居る補助監督生の新田の弟という事。ひとりしか居ないけれど、私が滞在するからって事で机と椅子が既に用意されていた。
『おはよう、ございます?』
「……ああ、はい、おはようございます……なんで疑問形で?」
荷物を置き、こっちをまじまじと見る新田をじっと見つつ。
……珍しいな、という視線だ。それは春日だからとかじゃなくて、普段彼ひとりの教室に一定期間とは言えクラスメイトが発生したからって事なのかも。
『…いや、あんた…新田のお姉さん?は東京校の方でさ。良く医務室に来てて。弟の話を聞くし、知り合いか?くらいの感覚になってきてる。やっぱ似てるねー…』
「まじか、身内からの個人情報流出とかつらいんですけど」
なんとなく、姉に近いものを感じつつ、まあやっていけるだろう!と自信を持って京都に来て初日の学校生活が開幕した。