第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
『おはよう御座います、歌姫さん……』
寮を出て、待ち合わせの時間に歌姫と合流した。おはよう、と微笑む歌姫。何かに気付き少し困った表情になって私の顔を覗き込んできた。
「なんだか朝から疲れてそうね……場所が変わって昨日は良く眠れなかった?」
いや、場所は変わっても多分ひとりなら普通に爆睡出来てた。
問題なのがいつも居る人との行動であって。苦笑いしつつ歌姫からすっ…、と視線を反らした。
『いえ、夕方から今朝にかけて悟が来てまして……まあ、ウン…その。対応ですねー…』
「あーー……察したわ、ウン。大変ね、ハルカは」
どういう意味で察したのかは分からないけれど苦笑いをした歌姫は、「こっち」と私を誘導して教室へと一緒に並んで歩く。
歩いて移動しながら昨日の事を復習するように繰り返した。
「授業を通常通り受けていて良いんだけれど、呼び出しがあれば治療が優先。それは東京と同じって聞いてるけれど異論は無いわね?」
『異論なし、で。硝子さんの休みのシフトの日が二週間続く、と思えば良いですよね、放課後以降も連絡あれば出動って事みたいですし』
「うん、そうね。24時間ってことだものね……出来るだけ、あなたを呼び出したくないけれど、怪我はどうしようもないし……まあ、でもマリアが出てきてる時はハルカの負担もかなり減るんじゃないかしらね」
完治せずとも、そういう術式がなくても非術師の世界での医療経験があるマリア。悟経由でだけど「オペも出来るらしいよ?」と聞いてる。どういう経歴があるのやら……。
ぴた、と止まる歌姫。片手を向けるのはとある教室。
「着いたわよ、ここが一年の教室。しっかり呪術について勉強してらっしゃい!」
『もちろんしっかりと!……あっ、でも数学は嫌いなんですけれどね?』