第3章 呪術を使いこなす事
腕を組んで様子をじっと見ていた悟は家入へ話しかけた。
「治療する相手に術式の開示をしたら大怪我の場合は治療速度上がるかも。それと呪力を見る限り遠距離じゃない、完全に触れないと駄目。術式順転としては文句なしだけど本人が理解してかないと」
「ぱっと見回復だけれど反転ではなく順転、か……髪の本数数えるのはちょっと面倒くさいか」
「治療する手間楽になるってハルカの式髪使い切んなよ、硝子。僕が困る」
「分かってる分かってる」
同級生というだけあって仲が良いんだなぁ、と僅かにちくりとする胸。
……いや、そんなんじゃないし。スン…と真顔になり、ふととあるキーワードに引っかかったので見上げた。
『困るって?何が』
もしも真っ白になって死んだとしても、私が死ぬから、"私が困る"そして祖母も困る、父親や兄が困る。
じゃあ、悟にとっての"困る"とは、一体なんだろう?私を身代わりにするつもりでも無いと言っていたし(流石に本音は分からないけれど)
ツカモト2号を抱いた男がかちん、とニヤケ顔が固まる。それを家入は何箇所か角度を変えて覗いてフフン、と笑った。
「本音でも出たか…、」
『…おーい…し、死んでる?』
話しかけても、悟は変わらずニヤケ顔で、ツカモト2号と名を付けられたコアラを抱いて固まったまま。
「死んじゃいないけど、答えを用意せずに口走ったんだろ、この馬鹿は。それかただ単にふざけて固まってるだけだな」
『へー、家入さんと同級生かつ、七海さんの先輩でありながらこの人……逆コナンくんキメてますもんね』
「高校時代からそんな変わってないからな、こいつは。オツムの成長が止まってるのかもしれないな」
「……あ゛ん?」
硬直していた悟は何事も無かったようにぴくりと動き出し、ぬいぐるみを壁に投げつける。ポン、と跳ねたコアラが簡易ベットの上に落ちたのが見えた。
真っ先に私に近付いてくるので(速歩き)逃げるしかない。捕まったらろくなことにならないのは見えているし。
速歩きで家入の背後に回ると、28歳児は家入を挟んで左右からフェイントを掛けて私を狙っている。
「あのさ、私を挟んで止めてくれない?」