第3章 呪術を使いこなす事
腕を痛がる男性ではなく、頭を押さえていた方に寄り、家入は前髪を片手で上げる。大きなたんこぶが額…生え際に出来ていた。
父親の腕が回復した事を思い出す。腕が無く、もう片手を握っている時だったかな。
『父親の無くなった腕や切り取られていた脚の肉を元通りにしたの、その時片手を握っていたんだけれど…私は怪我人の体の一部を触れていれば良いのかな?』
「とりあえず、同じ状況を再現するようにしてみれば良いよ」
分からんものは分かりません。
質問は自身に問いかけていた様で、私は頭を怪我した男性の片手を握った。
呪術がどういう事か分からないけれど。治りますように。式髪で吸えますように。
その程度に考えながら、そのこぶを見ていると、膨らんだ丘がみるみる平らになっていく。
「……おお、なるほどね、うん。治っているな」
家入はたんこぶのあった場所を手をぺちん、と叩くと男性は押さえて本当だ、と擦っている。
次に家入は隣に座る、痛みに悶える男性の側に立って、私の腕を引いた。
「次に骨折。さ、治療して」
痛そうな怪我で、私はしゃがんだ。その人が痛みのあまりに自身の太ももに手を置いているからだ。その腕を押さえている手の甲に私の手を重ねてしばらく、じわじわと治ってきた所だった。
「ストップ、一回離れる」
『え?』
手を離して、なんでも無い、とまた手を重ねる。
手を離している間は治療が見るからに止まっていた。そういう面を確認していたみたいで、見上げれば全てのやり取りを悟はアイマスクの奥で見ているようで。その組んだ腕にはコアラというミスマッチさ。
目の前の腕の、紫色を見ていると、歪みが消え、肌が通常の色に戻っていく様子が見える。
「治せたと思うか?」
『うーん…どうですか?痛みます?』
手を離して男性の顔を見上げる。私が触れていた腕で骨折のあったその場所を擦り、押し、頷いた。
「痛くないです」
「肋骨は痛むか?こっちの方、ハルカに言わなかったけど」
「……胸の方も痛みません」
「そう、人体まるごとなのか…本人としてはどうだ?呪術のリバウンド等はあるのか?」
立ってみて、何の異変も無い。家入はクリップボードに挟んだ紙にさらさらと書き込み、椅子に座っていたふたりに「もう良いよ」と合図を送ったら、ふたりは帰っていった。