第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
本気で迫るように、前のめりになって訴えかける学長と歌姫。圧力に思わず努力だけはしとこう、と請け負っておく。悟が人に言われてやるのはなかなか無いし、私の頼みだからってそれが全部受け入れられるとは思わないんだけどなぁ……。
苦笑いを浮かべながら、硝子が居ない版の東京と同じ対応である内容だって事と、この後仮の住まいである寮へと歌姫が案内するという話を聞いて。
ドアを失礼しました、と応接間から出て歌姫の案内のままに部屋へと向かっていった。
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部屋に荷物を一度置いて、医務室へ行ってマリアに書類置き場や念の為の簡易的な救急箱の位置などを教えてもらい(私は術のみに頼ってるけれどマリアはこれらを頼ってる)……あっという間に空がオレンジ色に変わって。
今日は色々潰れてしまったけれど。明日からは普通に朝から教室に向かう。そして呼び出されれば医務室へ。荷物を整理して、落ち着いたから携帯で悟に連絡しておこう。
結構忙しない一日を過ごしてたから全く携帯を確認出来てない。短く震えてたからメッセージは受け取ってるんだと思うんだけど。
なんだか嫌な予感を感じつつ、携帯を取り出してスリープモードを解錠した瞬間。
『うわっめっちゃメッセージ来てる……』
58件。そしてシュポ、という音と共に通知は59件とまたひとつ成長していく。
アプリを開けばそれはまたいつもの悟との世界。構って、とか無視しないで、とか愛してるよ、だとか。行動が出来ない代わりに文字で絡みついてくる感じ。並ぶ文字が甘えてきている。
何かをしながらこまめに連絡を入れていたみたいで、一定時間連絡が無い時もあった。任務とかやってたんだと思う……多分。
『寂しい、行かないで、ゲレンデがとけるほど恋したい……?
なにそれ、冬には早いでしょ。冬の定番タイトル出してどうすんの』
「ねー?」
ほんと。どこにゲレンデがあるねん。まだ秋なんだけど。雪が降るより木枯らしで落ち葉が降ってるくらいじゃい。
部屋でひとり、ベッドに座ったままに携帯画面を見つめる。最後にきたメッセージはなんだろうなってスクロールを……、
……え?待って?
今の返事、部屋から聞こえなかった?私は立ち上がってきょろきょろと部屋の中、ベッドの周囲を確認した。