第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
『……こういう期間を設けた滞在なら大丈夫だとは思うんですけれど。転校、となるともれなくおまけが着いてくるようになりますって…』
"おまけ"と聞いてふたりの顔が微妙な表情になる。
「……おまけは私、遠慮したいんだけれど?」
『歌姫さん、めっちゃ真顔。いや、今回についても毎日京都に行く!って騒いだのを我慢しろっていうのと、週一程度っていうは完全拒否されまして。それでも一日おきにこっちに来るって事で落ち着いて……
歌姫さん?あの、大丈夫です?』
なんとも言えない顔して拳を握りしめてる。過去に悟に何をされたのやら…。先輩に敬語など使わないっていうのは聞いてるけれども軽く聞いて良いものではなさそうで。
今にも舌打ちしそうな表情でちょっとキレそうな所を抑える歌姫。なんとかぎこちなく微笑む程度まで持ち直していた。
「もうちょっとあいつに厳しくしておきなさいね、ハルカ。甘やかしっぱなしじゃ駄目よ?」
『は、はい…』
思わず背筋をピンと伸ばし、膝と膝をくっつけて歌姫の話をきちんと聞いてる。
「それからいい?やだ!っていうからってハルカ側がすぐに折れちゃ駄目、しっかりと駄目なものは駄目って怒りなさい。今の所多少制御出来るのは私が知ってるだけでもあなたくらいなんだから」
「……年上・立場が上のものにもそれなりの態度と敬語を使うようにもな、あいつをちゃんと叱っておいてくれ」
あれ、私悟の姉でも母でも年上でも無いのに保護者というポジションになってたの…?
周りが思うほど制御出来ていないのに責任を私に押し付けられてしまった。彼を制御出来るのは彼自身の気分、そして飴と鞭の使い様。気分次第では飴も鞭も効かない、正に無敵になる時だってある。
立ってる歌姫は少し屈み前傾姿勢に、机を挟んで対面する学長は座ったままに覗き込むように無言の圧を放ってて、両者の顔を交互に見てこれは無理です!なんて言えない状況。一度固唾を呑んでカクカクと頷く。硬い表情を柔らかくしよう、と笑ったつもりだけれどきっとぎこちない笑みになってると思う…。
『アッハイやれるだけ伝えてみますけれど期待はしないで下さいね……?』