第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
201.
──応接間。
この部屋に来るのは二度目。失礼します、と中に入れば既に座って待っている学長。
「よく来てくれた」
『はい、しばらくぶりになります、楽巌寺学長。今日から二週間ほどお世話になりますね』
「うむ。……で、五条、と呼べば良いのか?」
『任務などで被る可能性もあるんで、混乱防止の為ハルカでお願いします』
納得したように「そうか、」と一度頷く学長。大丈夫そう、前みたいに怒ってない!悟と来ていた時キレてたからなー…、と今は穏やかな爺さん(ピアスめっちゃ着けてるけど)になってる学長と話す。
私の側には歌姫が立っていた。私服ではない、巫女の姿。
滞在は今日は移動や説明などで潰れるから、明日からの二週間の滞在という説明から始まり、こっちに滞在中は授業を受けていても良いけれど連絡があれば治療の方を優先して欲しい、との学長直々の話だった。ただ、怪我人ってのはこの時間に来る!っていうもんじゃないから、必要な時に連絡が来るって事。
つまりは今までと変わらない状況となる。本当に東京から京都に場所が移っただけって事。
「──……とまあ、こんな感じで頼みたい。また、可能であれば二週間と言わずここに居て欲しい、と頼みたいのは京都校の代表として以前と変わらない願いなんだが……」
高齢故に背の曲がった状態、座った学長は対面する私を眉の下から覗き込むように見上げてる。必死な学長の頼み方に、はは、と歌姫が笑う。
「こっちには治療の出来る術師がいないもの、東京には硝子にあなた、それに今は乙骨憂太まで帰ってきてる。こっちとしてはひとりでも確保したい所なのよ。今年入った一年生に現在の状態を保存出来る術師はいるけれどね。重宝するけれどその術式が治療そのものとは言えないし…」
学長が言いたいことを歌姫が代弁してるみたいで。
まあ、京都もこれから好きになっていくとして。けれども私一人でその返事をどうにかなるものじゃない。切っても切れない関係となってしまった、契った相手が私には居る。
うーん、と少し考える。考えても脳内に出てくる想像上の彼の表情顔は不機嫌そうで両手でバツを作り、首を必ず横に振る。本人じゃなくて私の思考の中でも悟らしさが出てきてるのはそこまで悟に染められてるのかな、と思わず笑いそうになって咳払いする。