第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
ガタガタガタ、と小刻みに揺らしまくる座椅子。ガコ、と妙な音がして車内の全員が黙った。やっべ、壊したかも。
マリアが振り返り、自身の座席をちら、と見た後私と歌姫を視線で追う。その視線はサーチライトか、と私も歌姫も前方から目を反らした。
「今、私の座ってる、」
『何もなかった、良いですよね?歌姫さん』
「ええ、何もなかった。私もハルカも何もしてないわ?」
前方の視線に合わせないように、俯きつつ後部座席に並ぶ私達は視線を合わせ、ヨシッ!と力強く後部座席の私達は頷く。
……後日運転していた補助監督生により上にチクられるのはまた別の話として。
そんな騒がしい中で京都の高専にとやって来た。
ゴロゴロとキャスターを鳴らしながら荷物のたくさんはいったキャリーバッグを引っ張って敷地内へと踏み込む。京都校に転校しろ、の拒否をする為に来た事があったけれど。まず最初に今日はこっちの学長に一応挨拶をしに行く事になってる。
三人並んでやって来て、マリアが「では、」と言うので私達は立ち止まった。
「では、私は医務室へ。さほど東京と変わりませんがハルカも校内案内の時に寄るでしょう、またその時に」
『はーい、了解です』
軽く手を挙げると、マリアは少しだけ躊躇った後に軽く手を挙げ、背を見せて去っていく。あまり無駄話をしない静かな所はクリミアだった時と変わらず。
気持ちを切り替え、歌姫を見た。
『前回来た時に悟が学長をキレさせる事やらかしてたんですけれど、仕返しが私に来ません?大丈夫ですかね?』
「あいつなにやってんの……。ハルカとあいつじゃ全然違うから平気よ。別にあなた非常識ってわけじゃないしそこはうちの学長も分かってるはずだから」
そうなら良いけれど……と不安になりつつも、にっ!と笑う歌姫に背を押されて私は応接間へと向かった。