第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
目の前に幅寄せして停車する黒塗りの車。
トランクに荷物を入れ、私と歌姫は後部座席に乗って発車した。運転するのは知らないスーツを来た男性。京都の高専関係者なのは分かる。その隣には女性、というか……マリアが乗ってる。医術に長けているという事もあって時々通ってるとは知ってたけど、今日は京都校に行く日らしい。
「おはよ、マリア。ハルカが来てるから丁度良かったわね。
ハルカ。マリアは医務室に週3程通ってるのよ。今日が丁度その日ってワケ」
『へー!悟から聞いちゃいたけれど。春日家から通いで?』
歌姫の前の席に座るマリア。私の斜め前の席。
ちら、と横顔を見せ、少しだけ口元に笑みを浮かばせてる。リベルタで縛りをしてた頃よりは少し愛想が良くなっている彼女。開放感からか、それとも別の何かか……。
「……はい、ありがたく住まわせて頂いてます。アパート等でも契約して通おうとしたんですが、龍太郎に止められまして」
『へぇ、はあ、ふう~ん?止められた…と?』
「はい…」
少しの沈黙と横向きの彼女の目が泳ぐ。私やマリアの様子をちら、と目で往復した歌姫はニヤリと笑って座席を掴んでガタガタ揺らした。
これは楽しいものが待ってるようで。マリアは目を合わせたらいけないと察したのか、サッ!と前方を向いた。
「一軒家で過ごしてたら何も起きないワケがないわよね~?」
『ラブの気配察知では?エルオーブイイーの気配では?』
「ちょっ、止めて下さい!別に何があったとかそういうのは私達には…っ!」
悟からイイ感じだって聞いてるし。許婚であった龍太郎をフッた私にとってはそのふたりがくっつくのは良いニュースだと思う。
祖母共に攫われたあの日だって我を忘れる程に龍太郎はマリアを助けに行こうとしてた。自称アイドルオタだと言ってて、私には興奮しないだとか勃たねえだとか言ってた彼にも現実的に夢中になれる人が居るってこった!
……はよ、くっついてしまえ!私も席を掴んでガタガタと揺する。
『静かな屋敷、使用人でもないのに男女がふたり、これはもう意識しちゃいますよねー、何も起こらないわけがない!』
「うん、するでしょ。どこまで関係は進んだワケ?」
「か、かか、関係もなにもないですっ!世話になってるってだけでっ!」