第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
『……』
ずっとこの体勢は少し腕が辛くなる。
もう一度、アラームがなる前を再現するように、ちょっと起こした身体をぴた、と悟にくっつけた。筋肉質とはいえ、力を入れてないから多少はふにっとしてて気持ち良い。なんていうか守られるような安心感っていうか……。
くっついてみればアラームで起こされて気が付かなかったけれど、丁度耳が悟の胸元でトク、トクと心地よい音が聞こえる。聞き続ければそれが子守唄みたいに眠くなりそうなリズムに聴こえてくる。
そしてなによりも暖かい体温。しばらくはこの音も体温も会えないのだから今のうちにしっかりと覚えておこう。二度と会えないわけじゃないけれど、寂しくならないように。
この確かめるような行為が幸せのひとつだと感じて頬が緩む。もう少し、もう少しだけ悟とこうしていたい。
部屋の様子だとか余計な情報をカットするように、悟を感じたくて少しだけ目を瞑ると、クククッ、という笑う声を間近で聞いた。
「……二度寝するの?悪い子だね」
なんだ、起きてたのか。いつから起きてたんだか知らないけれど目を開け、顔を起こせば少し眠そうな顔の彼。
『おはよ』と言えば「おはよ」と返ってくる。
『二度寝じゃない…、しばらく会えない分、悟をちゃんと覚えておこうってこうやってんの』
もう一度胸元ですり…、と擦り寄り、顔を上げてにこりと笑ってみせれば、下から私を見る眠そうな目を見れば白い睫毛をふさふささせてる。顔だけ起こしたままに、私が乗って敷かれている悟の寝起きの顔を観察するようにじっと見た。
安心させるように微笑む表情を見せている彼。
「二週間全く会えないってワケじゃないよー?僕からハルカの元に通うから、ハルカには絶対に寂しい想いをさせないからね?」
『ちゃんと東京で留守番くらいしなよ、東京校の一年担任、でしょ?』
「うん、担任だね。それもあるけれど僕達は夫婦でもあるんだからもっと一緒に居たいって思うのは良いだろ?」
もぞ、と布団から片手が出されて私の頭を優しく何度も撫でる。気持ち良くて本当に二度寝してしまいそう。思わずそれを全力で感じたくて目を閉じる。犬や猫を撫でる時に目を細める理由がちょっと分かる気がする……。気持ち良い。