第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
緩む手からするりと服の生地が逃げていく。そのタイミングで彼も立ち上がり、私の薄手の上着を手に持って「帰るよ、忘れ物ない?」と立ち上がり、靴を履いて私の靴を近くに寄せていた。歌姫や硝子のものもちょっと離れた場所に並べてる。
……ここは話は終わった、と切り替えて大人な対応にして何もなかったように振る舞おう。平常心、平常心…。
しゃがみ、靴を寄せた悟に『靴、ありがと』とだけ言って靴を履こうとした瞬間。耳打ちを食らった。「帰ったらベッドで素直にさせてあげる」って。
……うん、お酒飲んでたとはいえちゃんと記憶はある。
すやすやとアラームが鳴った事なんて知ら無さそうな顔を見て、ひとつ息を吐いて、その先を思い出していく。
今日、歌姫は京都に帰る。私をついでに連れて。その為、ホテルに泊まるのも面倒だからと硝子の元に歌姫は泊まるという話を聞き、私達は高専の寮へと帰って来て、ふたりに『おやすみなさい~!』って別れた。自力で歩けてたし、寮にも部屋にも辿りつけてた。寝支度もしっかり整えられていた。
ベッドに腰掛けた時だったっけ。
「そんなに僕の事好きなら、本人の前で言ってよ」だなんて言いながら、覆い被さり私が好きだと言った返事をここで食らった。しっかりと愛されるえっちをして、がっしりと身を寄せて緩い話をした後のろのろと下着や服を着て……私に悟がしがみつくようにして寝たはずなんだけれど。うん、だから眠る悟の上にうつ伏せに、抱きつくっていうか覆いかぶさるようになんてやろうなんて思ってもいなかった。なんでだろう?着替えて眠ったから流石に全裸じゃない。寝てる間に脱げたわけじゃなく、服はそのまま緩いショートパンツにTシャツを私は着てる。悟は上はTシャツ、下がクリーム色のスウェット。寝相が悪かったにしては服はきっちり着込んでた。
悟はこうしてる間も変わらず起きないでぐっすり寝てる。外が明るくなってみれば分かる、枕元に落ちていたコンドームのパッケージをゴミ箱へと投げた。カサ、といって床にひらりと落ちていくビニール生地。あ…チッ、ゴミ箱から外れた。後で拾って確実に捨てよ……。