第3章 呪術を使いこなす事
20.
シャワーを浴び服を着替えて、食事と買い物から帰った午後になってからの事。
持ってきた本を読みながら勉強していると、悟が"怪我人が居るから硝子の所に今から行くよ!"と隣の壁から侵入して(さも当たり前のように)部屋から連れ出された私。
渡されたコアラを持って医務室へと向かっている。荷物だけれど訓練であるから仕方がない。見た目も可愛いし……。
コッコッコ、と通路を行く私のブーツと、悟の靴の音。
悟は片手で抱え、もう片手を頭に乗せているコアラのぬいぐるみを覗いた。
「勉強中はどう?それ、やりながら集中出来てる?」
『始めのうちはすぐすりすりしてくる状態だったけれどだいぶ静かに過ごせつつあるよ?ふふん、どうよ…あっ』
ぱちっ、と目を覚ましたコアラに必死に触れて寝かしつける。
「昔の達筆な手記が読めないなら僕を呼んでよ?遠慮してないよね?待機時間長くって生徒に指導しにいっちゃう時間、多くってさー」
『それ、普通逆じゃない?優先順位はまず生徒でしょ、先生なんだからさあ……、あ、医務室』
悟がガラ、とドアを開けるとそこには髪の長い白衣の女性が暇を弄ぶように立っている。おそらくこの人が家入硝子と悟が言っていた、呪術で治療を行う人だ。
そして椅子に座るスーツの男性がふたり。腕を抑えたり頭を押さえたりしていて、ちら、とこちらを向いた。
家入が入ってきた私達を見ると、呆れたような表情を浮かべている。
「遅い、五条。道草食ってただろ?」
「食ってないって。まーっすぐ来ましたとも!さ、ハルカコアラは預かるから慣れるためにさ、キミの親父さんの時の感覚を思い出しながら治してみて!ファイト!」
後ろのドアを締めた私からツカモト2号を取り上げると片手で背を押される。
少し、速歩きに家入の側へと寄った。
「みたらいハルカ、春日の血筋の子…か。
怪我人出る度に呪術に慣れて貰うために呼び出すから、そいつみたいにちんたらしないでここに来るように頼むぞ」
『はい、了解です』
家入はよし、と言い椅子に座る男性の腕を捲くる。男性があだだっ!と悲鳴を上げた。
捲ったその腕は紫色になり、擦り傷と、明らかに骨折しているような歪さ。男性は急いで太ももに自身の肘から置いて、呼吸を荒げている。
「さて、とりあえず隣の頭部の打撲痕から」