第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
何が、とも言わずとも返事をしてしまった。
悟が、とも今の生活がともどちらにも取れる。そしてどちらの答えも私は好きであって。
「そんなにあいつが好きかっ!?そんっなに!あいつが好きなんか!?どんだけ好きなのよっ!」
『めちゃめちゃ好きですっ!』
急に爆上がりのテンションの歌姫。あっこれは迎え早く呼ばないとだけど呼ぶ隙が与えられない。携帯片手の私に対し、「これくらい?」とりんご程の大きさを手で表す歌姫。さながら小トトロのような大きさ。
それにもう少し大きめに、『これくらい!』といえば一回り小さく「これくらいでしょう!?」と減量されたので更に一回り大きく『これくらいで!』とどんどん大きさを盛っていく。
気分も高揚してわいわいと騒ぎながら、「どこが好き?」『全部!』「盛り過ぎだろ」『盛りすぎました!』などと謎の言い合いをして盛り上がっていると。
ぽん、と背後から肩に手を置かれる感触。私達の座敷の隣からの落ち着いたスキンシップには初めてじゃない感覚を覚えてる。いつも触れられているような、大きくて暖かい手。
眼の前の歌姫が絶望した顔になり、呆れた顔の硝子。それにはいくらなんでも私は察した。迎え、まだ呼んでないのに。
ギギギ、と音がなりそうなくらいにゆっくりと振り返れば隣の座敷には悟ただひとり。机には緑の発泡する液体と幾つかの食事。もしかしてこの人ずっと居たん……??私の喉の奥でコヒュ、と変な音がしたような気がする。
サングラスを掛けた彼はちょっと顔を赤くして首を横に振っていた。
「……外でそんなにたくさん好きって言われるといくら僕でも恥ずかしいんだけど?」
『あ………ば…あばば…』
言葉が出ねえ。
いつから彼がそこに居たのかは知らない。ただ、結構前から居たのは確実となると、直ぐ側で私達の会話を聞いていたんだろうってのは分かる。酔って声が大きくなっていたから。
そんな事を考えれば私ときたら惚気けたような事ばかり口にしてた。今更出した言葉を喉に引っ込めるなんて出来ず、しっかりと聞かれてる。
かなり酔っていたはずの私の酔いは夜風に当たる事もなく、あっという間にどこかに飛んでいってしまった。