第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
とろんとした目で硝子からこっちを向く歌姫。手に持つスルメを口に咥えつつ。
「……やっぱり、ずっと居るとあの意味不明な行動も理解出来るものなの?」
「どうなの?」
ずい、と迫るふたり。口に入れたスルメを柔らかくしつつ、半分以下になったジョッキを持ち上げ、のどごしの良いビールで流し込む。
意味不明な行動を何個か思い出して、その行動する理由を考えるも……いくら考えても思考が終着駅へとたどり着かないや。私は考える事を止めた。まだ数本残るスルメを手に取り、口の端に新たに咥えて。ふっ、と笑ってふたりを交互に見て。
『……深夜にベッド周りでサンバを踊ってる人に何を理解が出来ますかね?』
「ぜんっぜん分かんねえー」
「理解したくもない、ちょっとハルカや私でも治せない病気だと思う」
その通り、私も理解が出来ないんだなあ。
枝豆をサヤからぷりっ、と取り出していれば、大きなため息が聞こえる。歌姫だ。アルコールのせいか、声が始めよりも大きくなりつつある。
「いいなー、結婚。硝子、良い人居るぅ?」
「私の周りにはそんな良い物件いませんよ。そもそも呪術師に良い人なんてそう転がってないじゃないですか、皆曲者揃いですよ」
そうでもないと呪いを相手に"まともに"やっけてないって事で。
まだ入ってきたばかりの新人でありながら理解してる。私がうんうん頷くのに対し、歌姫は「分かる」と力強く頷いてる。
「同じくこっちもよ。あーっ!五条のクセに結婚して惚気けて結婚って良いなって思う反面この職業柄難しいんだって体感してるー!」
硝子に抱きつく歌姫と、酔いとは無縁そうな硝子がとんとん、と机を叩いて私のバッグを指差して笑った。
「そろそろお開きだな。こうなった先輩はお開きの合図なんだよ、だからハルカ、迎えを呼びな。あんたも目がとろーんってしてる……先輩ほどじゃないけど」
『ウイッス!』
「手遅れだったな、すまん…」
携帯を取り出している私に、硝子にしがみつく歌姫は顔を向けた。
「……ねえ、新婚生活、楽しいもの?」
酔ってる割に声量が押さえられてる。さっきまでとは違いひっそりと囁くように。
それに合わせて私もひとつ頷く。好きな相手とずっと居られるんだから楽しくないわけがなく。
『……はい、結構エンジョイしてます』
「……好き?」
『……はい』