第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
"ひとりで出歩くな"……そう決められる前から私は守られ続けてるからこそ、こういう悟から少し距離を置いた状態で僅かでも良いから強くなって私自身を守れる力を磨いて、彼の負担を減らしたいって思ってるんだけれど…。
四季折々の景色はあるけれど、特に春や秋の観光客が多いって話を聞き、そして集まればそれだけ人の想いってのも集まる。
そうなれば呪いも溜まり……呪術師の出動って展開になる。術師となって初めての秋、初めての京都。しっかりとこの時期の京都に詳しい歌姫に予習として色々聞いている。
はあ、とひとつ息をはき諦めた表情の歌姫。
「ま、あいつにスカウトされた挙げ句、しっかりと囲われちゃあどうしようもないけどね……」
「ハルカ、歌姫先輩。次何か頼みます?」
店員が来ていて追加注文の酒を頼んだ硝子が、メニュー表片手に聞く。歌姫が硝子から手渡されたメニューをじっと見てる。
そしてメニューから顔を上げ、店員を見ながら軽く手を挙げた。アルバイトらしい青年が端末を片手にこちらをにこにこして見てる。いかにも注文、待機中って感じで。
「ハルカは何か決まってる?」
『はい、即決で』
「じゃあ先に頼みなさい」
あ、良いんです?とメニューの文字を追いつつ。
『白身魚のチリソース和えと、たこわさびと中ジョッキで!』
「同じく生中ジョッキを頼みます」
「はい、かしこまりました!」
端末をパタン、と閉じて厨房へと戻っていく爽やかな青年。歌姫はビールがどうも好きなようで。前もこんな感じだったし今回でそれが確信に変わった。
追加注文も終え、それで……と現在の京都の様子や高専の状況、注意事項を聞いていきしばらく飲んで、飲んで、食べてまた飲んで……。
ガンッ!と机にジョッキを置く歌姫。
目がとろんとしてる。酔ってるな、と明らかに分かって、硝子は歌姫を見てはははっ、と笑っていた。
「ハルカさぁ~?ホンットのホントに一緒になる相手があいつで良いの?誰もが知るクズ中のクズよ?最悪離れる事も出来るけど下手したら離れたくても離れられなくて一生モンでしょ?星の数ほど居る男達の中でどうして暗黒物質なんか拾ってんのよ?」
『あんこくぶっしつ……ダークマターっすか?』
「そっ!ダークマター。超疲れない?学校だけじゃなくて家にまで居るんでしょ?」