第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
──ちょっと、僕の代わりの目を後で着けておくか。
そう決めてドアに手をかけ、力を入れる。
……出来る限りはハルカの意志に沿いたいけれど、彼女に嫌われない程度にしっかりと影から守らなくちゃ。せっかく手に入れた初恋の相手。夫として、当主として。もちろん、年上として、教師としてもね?
いつもの調子で居なきゃ怪しまれちゃうね。笑顔を口元に飾り、バンッ!と勢いよく開け放つドア。
「正解は!A!」
「うるっさ!」
『ひとり格付けチェックしてんじゃねえよ!』
驚いた皆の腕に抱えられていた、脱兎たちが飛び跳ねて教室の後ろに逃げ出してく。えっ、何皆で恵のうさぎチャンで癒やされてたワケ?僕が来ない間をリラクゼーションタイムにしてたの?
それには思わず首を傾げた。
「脱兎じゃなくて僕で癒やされれば良いのに~!うさぎさんはあざと可愛いけど、僕なんてあざと可愛い天才最強GLGでGTGな男だよ?刮目せよ!この呪術界に誇れる特級のイケメンをさっ!」
顔が良くて癒せちゃうからそういう面でも最強だよね。結構自慢になるって思うんだけど。
胸に手を当てて自己アピールをすればどこからかチンピラみたいな舌打ちが。
『ん?みちのくドライバーⅡすっか?今すぐ掛けられたいって?せっかちだなあ…』
「やめて、気持ち良いのは好きだけれど痛いのは好きじゃないもん!」
恵が脱兎を披露してからたまーに癒やされてる光景を見かける。動物園に皆で行った事もあり、皆生き物が好きなんだろうね。呪いみたいなグロテスクなものよりは造形の緩やかなアニマルの方が良いのは分からなくもない。
……ハルカは部屋で良く僕の事をよすよすしてくれるし充分に癒やされてるのかと思ってたのに。脱兎にちょっとだけ嫉妬しちゃうなあ。人でないものにそんな感情を持つなんて僕も相当呪われたもんだ、と教卓前で四人を見渡す。術が解け、うさぎたちはポン、と小さな音を立てて消えていった。
「楽しいアフターの為にホームルームするよー!」
はーい、と元気な皆の声。といっても恵は声を出してないんだけど。これは明日からひとり分減るのが僕には辛い。
アイマスクをしたままに腕を目元にやって泣くフリをした。