第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
コイン投入口付近に悟は少し屈んで抱えていた景品を3つとも立てて置く。そして財布を取り出しつつ鼻でちょっと笑いながら少し悲しそうで。
「でもさ。初めてのえっちはキミじゃないんだよ?それ、すっごい心残りなの。ハルカは僕で初めてだったのは良いけど、僕だけはただ寄ってきた女の子に。ただ若い時に湧き上がる欲をぶつけてきただけで体が満たされてもオマエの時みたいに満たされる事なんてちっともなくてさ。
……僕はその童貞をハルカで捨てたかったんだけど?」
……確かに。そう聞けば私も悟の初めてを受け入れたその顔も名前も知らない女に嫉妬してしまう。なら、あの時に抵抗せずにしておけばよかった、なんて良くない考えもする。それでも進んでしまった時計はもう戻せないのだからしょうがない。
ファーストキスはお互いが初めてで。
初恋は悟は私、私は別の人。
初めてのえっちは悟は別の人、私は悟。
これだけはもうこれ以上話しても考えても努力しようともどうしようもないのだし。
『……それを言ったら私の初恋は悟じゃないよ。悟と出会うよりももっと昔の事。今思い返せば何が好きだったんだろう?って人が初恋の人。今じゃその初恋が五条悟という人間じゃないって事が少しだけ残念って思うけれど、それでもこうやって一緒に居られる。
……その、ね?』
"今じゃ私は悟のものじゃん?"
過程はどうあれ、結果は今。籍を入れ、私はみたらいから五条という名前をこの先死ぬまで付き合う事にしてる。嫌じゃなければあの保険である婚姻届に書いてすらいない。
あちこちの機器からの大爆音で掻き消されそうだけれど大声で言いたい訳じゃない。ぼそっ、と呟くように声量を上げるべき雑音の中で小声で言ったのに、それはきっちりと悟の耳に拾われていた。
少し嬉しそうに、ちょっとだけ照れたように笑ってる。