第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
数歩こちらへと近付く悟。
静かな周辺、蝉じゃなくて少しささやかなコオロギとかが小さく鳴いてる。こっちは、いや元々の時間は秋だから。
私の肩に片手を置いた悟。
「キミが封印した記憶っていうのは、とてもとても大事な秘密。"僕の初恋"だよ」
『……はぁ?初恋…、』
にこ、と目の前で悟は笑った。
「いくら十三年も前に記憶を封印しても、脳の奥底でずっと名前も姿も忘れたハルカの面影を探してた。
初めてあの街中で会った時に、まあ……春日家については龍太郎のお姉さんの件もあって知ってたけど。本物の春日家のハルカを見て、どこか引っ張られるような呪力の見た目と、髪を白に染めるって話を聞いて、遠い微かな記憶からメッシュをおすすめして。おぼろげなハルカの像……僕が初めて好きになった人に近付けようとしてた。
それが実際にキミ本人だったんだけど」
ククッ、と笑う悟はポケットからサングラスを取り出した。ラウンド型の…髪はちょっと長いけれど。さっきまでの口の悪い若き彼との任務や楽しかった会話が思い出される。
一時間か、二時間か。たったそれだけの付き合いだったのにどうしてかとても深い絆を繋いだような、長い旅をしてきたような。そんな錯覚さえする。
「記憶の封印を解かれるとね、当時の記憶が蓋されてそのまんま、新鮮な状態で蘇んの。だから割と一日経っても僕にはあの日の思い出の多くを思い出せる。
……で、ハルカはさっき体験して戻ってきたばかり。新鮮な記憶のまま、おあいこだね~?って事で、五条悟の伝言サービス!当時15歳だった悟クンからハルカちゃんに伝えたい言葉を預かっております!再生しますか?」
切なそうに話す悟は次第ににこにこと笑顔を浮かべて言う。これは拒否権なんてないって事。意味のない疑問。
『んな、留守番伝言サービスみたいに言わなくても……うん、再生してください』
きっと私は今、あの時の拒否権無く記憶を封じられた彼の言葉を耳にする。
再生して、つまりは悟の高専時代の言葉を聞くという私の言葉に悟はふっ、と笑った。
「うん!決意がされてるようで。じゃあ、再生するね~…ごほんっ!」