第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
急に大事なモノが抜け落ちていく不安。せめて手がかりを探したい。名前も知らない誰か、髪色がちょっと変わってた、どこかで聞いた事のある一族。呪力の残滓を見つめる。確かに俺以外の呪力の形跡があった。建物にも伸びてる、新しい方。あっちは袋小路、ならば消えそうな森の方に続く足跡を辿った。
──消えないでくれ、頼むから!
何故か手放せない、良くわからない呪物を持って走った。走って走って、行き止まりである場所は小さな祠の前。今にも消えそうな、ちょっと内股の呪力の足跡……俺が探してたのは多分、女だったはず。
周りを見ても誰も居ない、手がかりもねえし唯一残されたのは何故か大事に持ってる重たいカメラ。
これの扱いは好きにしろってさっき、笑ってる誰かに言われた気がする。
誰かに色々と学ばされた気がする。ゴミを捨てんな、とかダチを大事にしろとか当たり前の事。青春しろ、とかもだっけ?
無性に叫びたい名前があったのに、口を開いた所で名前が分からない。
「……チッ!」
イライラする、でもこの呪物は壊したくない。壊すなって本能が叫んでる。
どうしような?と思って、祠に隠そうって考えた。ポケットには朝、コンビニで貰った袋をぐしゃぐしゃにして詰め込んだのがある。カメラを入れてぎりぎり入るから詰めてきつく結んで、祠の中に押し込めて。
こうして呪物を隠し終えた俺は何をやってんだか…ってトチ狂った行動してるのに笑えてきた。夏の暑さにやられたんかね……。
「なーんか。ムショーに虚しいんだけど……つか、なんで俺、勃ってるワケ?」
蝉の声がうるせえのに、ちょっとだけ楽しかった記憶がこべりついてる。さっきまでなんか馬鹿みたいに焦ってた。どんなものかが思い出せないけど。
腹減ったな、とポケットを探ればそこに飴が入ってた。こんな飴、いつから入ってた?俺が買ったというか誰かに貰ったんだと思う。夜蛾セン?傑?硝子?補助監督?まあ、別に貰ったなら食っても良いか。飴じゃあ腹の足しにならねえけど。
「まっいいか!なんか口ん中腹減り過ぎて鉄の味するし……迎え来る前に一発その辺に抜いてこーっと!」
オレンジ味の飴が口の中を上書きしていく。
個装紙を森の中に一度落とし、なんだか嫌なキモチになった俺は拾い上げてその場を去りながら、迎えの連絡をした。