第3章 呪術を使いこなす事
近付けてるはずの手の平は悟の手の平にいつまでも触れることが出来ない。
もう片手も出されたので、同じく触れようとするも触れられない。
あー…これってうまく利用すれば空中散歩とか出来そうだな。興味津々に触れそうで触れない手を見ているとするりと指の間に入っていく悟の指。両手は絡み合うように掴まれてしまった。
『これは?』
「術は解いてる。このままさ……キミから来てくれないかなーってね。ほら、僕は目が隠れているから気にせずに良いんだよ?ほらさ、朝の続き!」
『な、何言ってんのするわけないでしょっ』
「ここで何をしている、悟」
少し顔を寄せて迫る悟に、床に座っていてしかも両手を掴まれていて。そんな逃げられない状況に頭上から男性の声が降ってくる。
見上げてみればサングラスをした、怖そうな見た目の人。うちの父親とちょっと似ている人だ。悟はえー?と駄々をこねた。
「学長ーなんでここに居るんですか?ちょっと良い所だったのにー!泥棒猫チャンっ!」
学長。このいかつい人がここの学長なんだー…と思いながら、離されない手を見て引っ込めようにも悟は離してくれない。
「なんでってお前はな…!私に呪骸を頼んでそれはないだろ。これだ、ツカモト2号。一定の呪力が流されないとしがみついてスリスリする、とかいう…」
スリスリ……?いかつい人物がぬいぐるみ持ってるだけでギャップがあるけれど、そのぬいぐるみを差し出すと悟は私から手を離してぬいぐるみを受け取る。まあ、まあまあ持ってて似合……わねえなぁ。
じっと見ていると悟はぬいぐるみを色んな角度から観察している。
「注文通りだね、ありがとねー!流石に悠仁のアレはハルカボコボコにされちゃうもん、段階を踏ませなきゃね。呪力を自覚してまだ数日のハルカはこういうのじゃないと…、」
コアラのぬいぐるみだ。全長30センチはありそうな大きさ。
それを悟は私にはい、と渡す。渡されるままに受け取ったけれど、このぬいぐるみ…生きてるみたいだ。
お腹が膨らんでへこんで…眠るコアラを抱きかかえる。それを持ち上げてじっと見ると目を覚まして飛びついてきた。
それに慌てて私は立ち上がる。コアラはすりすりと布地を擦り寄せている…コアラ自体の意思で。