第3章 呪術を使いこなす事
「悠仁にも見せたんだけれど、呪力と呪術の違いを見せちゃいます」
『急だね、見せちゃいますと言われたなら遠慮なく見ちゃうけれど』
顔に張り付くうっとおしい髪を掻き上げて、悟は飲んでいた同じドリンクと、私の開封したものを持って1m程離れた位置にコン、と置いた。
そして私の側にしゃがむと口をちょっと尖らせた。
「はーい、ご覧くださーい、これより、右側を呪力で、左側を呪術で潰しまーす、そぉれ!」
カンッ!ベキ…グシャアッ
右側が手でへこませた様に潰れ、左側が悟が呪いを対処する時に良く見る、捻るように潰される缶ジュース。悟のは飲み干してあったのか軽く、私のはまだ残っていたのでぶちまけられてしまった。ああ…もったいない!飲めばよかった。
"潰す"……それをほぼ同時にやってのけるので驚いた。
凄いなぁ…!こうも綺麗にやってのけるなんて。
『すっごいね…器用というか、悟は一体何をしたの?』
私はこの人が何を使っているのか知らないから、今起こったことが分からない。
悟はいやぁ、と照れるふりをしながら答えてくれた。
「無下限呪術だよ。僕は無限を使うんだ」
『むげん』
「無限って至る所にあって、僕はそれをちょいちょいっと持ってきてる。ほら、ハルカ僕の手に触れてみて」
無限てなんだっけ。知っていながらよく知らない言葉。数を数える、一、十、百、千、万…の最後が無限大数。その無限、"限りが無い"という言葉しか知らない。
手の平を出す悟に、そっと手を近づけると触れるに触れられない空間がある。おお…、なんだこれ、車の車窓全開で手を出した、強風みたいな、物理を失ったスライムのような、"ない"のに"ある"という不思議な感覚。
私は無限に夢中になって手をぐいぐいと近付けて体感した。種も仕掛けもないマジックだ…ああ、出会った時にマジシャンとかも言ってたっけ。それがこれかぁ……!
その悟と私の手を真横から見て感心した。
「近付くほどに遅くなってるから僕には触れられないんだよねー、基本僕はそれで身を守っているのさ」
『はぇー…すっごいね……!全然何言ってんだか分かんないけど。凄いっていう事だけは分かる』