第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
193.
──その出会いは突然であった。
「では、終わりましたら連絡を」
「はいはい、じゃあ俺は任務に行ってくるわ」
バタン、と森ん中でドアを閉める音がセミの鳴き声に掻き消される。俺が降りた後はそのまま砂利をタイヤで踏み鳴らしながら砂埃を上げて来た道を戻っていく。補助監督が少ないから別の術師の所に行くんだと。
「はーあ…」
世間じゃ夏休みだっつーのに、こんなクソ暑い中呪霊を祓えとかマジでだりぃ。高専よりもこっちでダラダラしたほうが涼しいだろうし木陰で涼んでから迎え呼べば良いか。どうせ弱い呪霊だ。
何度も怒られてっし、仕方なく帳を降ろして売地と書かれた看板のある門を片手を着きジャンプして跨ぐ。この位置からでも充分に目的の呪霊の位置が分かった。ぶっちゃけ車を待機させて祓ってすぐに帰っても良いくらいに弱そうな呪力。
「あーあ、だりぃ。けど、途中でコンビニ寄ってきて良かったわー…」
軽く飲み物だけな。ズボンのポケットにビニールごと突っ込んでたものを取り出す。突っ込んでる間は太ももがひんやりして冷たくて良かった。車から降りてからは結露で濡れてる感。
ぷつっ、とストローを刺して吸う。買った時より少しだけ冷たさは消えてるけどこの暑さで飲むには充分に冷たくて美味い。
敷石を跨ぎ時々じゃり、と玉石を鳴らして両扉のドアノブに手を掛ける。そりゃあ開かないもんで。
「えいやっ」
おそらくはここだろって内部を術式を使ってひねる。内側でカランッ!と金属の音。あーらら、建物の価値下げちゃったわ。しらね、バレるとは思えないけど。帳サマサマだわ、今回やっといて良かった。
鍵の無くなったドアを開け、正面の階段を登る。時々片手の飲み物を吸い、ちょっとしたレジャー気分で。バイオの世界とは違う洋館って感じだ。
登りきって、こっちに向かってくる雑魚の呪いを祓いつつ、まっすぐに開けるドアの先。
頭が無くて胴体に顔がついた呪霊がこっちを振り向く。コイツか、と獲物の姿を認識してその瞬間にこの任務は終わりだって考えてた。
「はい、チェックメイト!」
"グ、グギグギッ……!うっ、"
部屋が俺の術式や苦しむようにのたうち回る呪霊の暴れる手足でぐちゃぐちゃになって。がたーん!っつって棚が倒れたりして。一軒家で良かったよ、通報されてたわ。玄関よりも一番被害の酷い部屋に仕上げてた。