第3章 呪術を使いこなす事
一緒に屈伸運動と伸脚運動をした、アイマスクをした悟。
フローリング張りの部屋で一対一で向かい合っている。
体術を教えると言ってくれたのは良いけれど、私は今日は平日だったよな?と悟のアイマスクを私はじっと覗き込んだ。
『一年生の担任教師なんだよね?授業せずに私のこういうのに付き合ってて良いの?』
ここ何日も毎日私に付き合っている。その悟が不思議でしょうがない。
悟はドヤ顔をして腕を組み、背を反らせた。
「教師たるもの、生徒を見守り、生徒たちに自分で考えさせて行動を起こさせる。可愛い生徒には時に課題…そう、難題を与えて臨機応変に対応させるという、ナイスガイな僕の考えさ!」
『放置プレイじゃねーか』
アキレス腱を延ばしてじとーっと教師らしくない教師を見る。へっへっへ、と笑っているけれど笑い事じゃないぞ、あんたは。
「じゃあ、いくよ?僕はかっこよくてつよーいからね、なるべく寸止めするけれど、キミは全力で掛かって来なさいね。ある程度身についてきたら僕もキミに殴ったり蹴ったりするけれど嫌いにならないでね」
『……変な気遣いだなぁ、それ、やりにくくないの?』
接近戦、初めての本格的な体術とはいえ、そこまで言われたら腰が引ける。嫌いというかイラッくらいはあるかも知れないけれど。
悟はそっと手をこちらに突き出し、指先でくいくい、と私を挑発した。
「さあさあ、来なよ。遠慮しなくっていいからさ。もしも呪力をどうこう出来るって分かったなら、肉体強化しても良いよ、出来るならの話だけれど」
『たらればの話でしょ、ティン!って閃いたらねー…出来る気配がないけれどっ』
私は悟へと駆け出した。拳を構えて……。
──そして2時間後
「もうへばっちゃったね、お疲れ様。今日はこれくらいにしましょ!シャワーでも浴びてきたら?すっごい汗だくじゃん~、ロウリュから出たて?」
『……うるせっ!』
手加減なく、ひたすらに動き(たまに休憩は挟んでくれたけれど)顔に髪が張り付いてるのが分かる。頭から足までぐっしょりだ。へろへろ、と床に座る。床が冷たくて気持ち良い…。
動き続けても、一回も悟に殴ることも蹴ることも出来ていない。のらりくらりと躱されて、悟の反撃は全て寸止め。悔しいわ、ちぇっ、と差し出されたスポーツ飲料を半分程飲んでカンッ、と床に置いた。