第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
『じゃあ、前払いしとくから。少し屈んで?』
「お、おう………サングラス、邪魔、かなコレ…ちょい外すわ…」
ぎこちなくラウンド型のサングラスを外し始める悟。
なんだかキスに不慣れてそうな感じだな…。普通にこの時から遊んでそうなのにまだ経験値が少ないのかな、この様子だと…。
……母さん。悟の記憶を封印したいんだけれども、5分後だとか10分後に記憶に蓋をするって出来るのかなあ?
静かに私の質問を聞いていた母は、"相手の脳に作用するんだから出来るよ"と返す。近付き、そっと屈む悟を見て自身で口内を少し噛んで血を出した。
「じゃあ、ほら…」
彼がちょっと屈んだだけじゃ唇が触れるどころか届かない。そんな必死な私を見てくすりと意地悪に笑った。これ、わざとだな…?
下手したらやっぱキスもナシ!って事もありそうだからここは強引に進めなきゃと決心して。両手を伸ばし悟を首を抱えるように。頭をもう少し下げさせるようにしてこちらへと引き寄せて。
私にそっと遠慮がちに回された悟の腕。目の前には至近距離のスカイブルーの双眼が少しずつ細められていく。
ただ無音だった。周りのセミの声ばかりがうるさくて聞こえなかったのかもしれないけれど。確実にお互いの柔らかい唇が触れ、熱を共有してる。でもこのままじゃ終われないから遠慮がちな悟に少しだけ積極的に私は深く攻めていった。もっと、と求めるように唇を開け、舌をねじ込んで……血混じりの唾液がそっちに行かないから押し付けるように私の血液を彼に取り込ませる。
ズクズクと痛む口内、ゆっくりと口内に血は流れてる。
……本当はもう少し屈んでくれればよかったけれど。だってそうしないと私の方に血液が返ってきちゃうし。
『んっ、』
──もう、母の術式は発動してる。術を掛けて空気を読んだらしく、すぐに母は帰った。それを見計らって傷付けた口内を治して。
私は悟に記憶を封じ込めるなんて言ってない、ただキスをするって事は言ったけれど。
きっと10分後にはゆっくりと私の事を忘れていく。この後の行動は私の居ないこの時代の時間が進んでいくだけ。
足元にある呪われたカメラの早すぎた出会いを未来にまで隠す行為。当たり前なのにそれがなんだかちょっと寂しいかな、と思いながら。