第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
『ねえ、悟。手伝ってくれるよね?』
はあー…、と離れた場所からでも聞こえそうなくらいに大きなため息を吐いて。
そして、にっ!と笑顔を見せた。
「仕方ねえから手伝う。オマエに泣きべそかかれちゃ夢見も悪いしな!」
『……泣きべそかいてねえよ??』
余計な一言だよ。
そう思いながら立ち上がって、雰囲気を察した私はそっと、髪降ろし"龍子"を自身へと掛けた。眼の良い悟の疑問を掛けられたらの対策も考えてある。
『ついでに今、怪我してる場所とかあったら式髪に吸っておくから』
なんでも治しとくぞっ!と片手の指先で自身の髪を梳いてみせて。
春日である私の術式が見えているであろう悟に治療をするという意志を見せておいて。
「ああ?……なんかの術式使ってるけど俺を治療するっていうの?」
『春日の一族は相手に触れて怪我とか病のような、"負"を吸い取って髪に移すんだよ。その時に地毛が白髪化する。
その吸い取ったのを呪力として保管して、吸い取った相手には"負"の代わりに"正"を与えんの』
自身の髪を梳き、ふぁさ、と毛先を振って見せておき。悟に勧められたあの日からいつも同じ場所に白のメッシュを入れる目立つ白い場所を見せつける。そしてサラ、と髪から手を離した。
『まあ……全部白に染まれば死ぬけどね。白髪部分の発散も出来るし、悟の怪我くらいなんだっちゃないし』
「あー……。別に俺、今は怪我してねえし。病気でもねえから別に治療しなくて良い」
『虫歯くらい治しとくぞ?』と言えば「ねえわ!」と怒られて。私の中の母は待機したままで。
──そろそろ、目的のひとつを実行する時。
悟を手招いた。少し足取りの重そうな、そわそわした悟。こういう珍しいウブな悟が可愛いって思う反面、この時の思い出でさえもこれからずっと忘れて生きて、10年以上経ってからきっと思い出す事になる。
任務とはいえ、申し訳ない…残酷なことをするんだな、と思いながらもやり遂げなければ帰れないという事も頭では分かってる。