第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
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ちょっと汗で湿っぽい彼の真っ白な髪を撫でる。離そうとしないぎゅっと抱きしめられた腕は緩めることはなくて。表情は見えないけれど嫌がる素振りはないからこうやって撫でていても良いって事なんだろうけれど。
「……じゃあこっから居なくなるってどういう意味?」
『帰るって事』
全ての理由は話すことは出来ないけれど。死ぬためじゃない、ただあるべき場所に帰るだけ。もぞっ、と埋められた頭が少し横を向いた。
「場所はどこ?俺がオマエにすぐに会いに行ける場所か、そこは?」
『すぐには会えない、かも。会うとしてもそれはきっと何年も先じゃないのかな……』
抱きしめられながら、私は髪をゆっくりと撫で続けた。一部汗で束になった髪もある。あまり撫で心地は良くない中、撫でる行為を受け入れる彼。暑苦しくひっつく、その腹部に埋めた顔が上を向いた気がする。
抱きしめる力が弱まり、腹部から顔を離した悟は顔が見える位置まで下がった。
「すぐに会えないとかどういう場所だよ?オマエの連絡先教えろ、その場所の写メ送れ」
『それが出来ないんだ、ごめんね』
場所は高専、けれどもずっと先の事。今の高専に私が居る資格はなく。「じゃあ…、」と不機嫌そうな表情になる悟。それは交渉が決裂する表情だと思った。
「じゃあ協力しねえよ。連絡も出来ない、どっかに帰る為の手伝いとか御免だね」
『そんな事言わないで手伝ってよ。二度と会えない訳じゃないんだし、同じ日本国内なのは変わりないんだから……場所は伏せるけど。
案外、街を歩いていてばったり会うかもしれないよ?』
……街を歩いていてばったり会ったんですけどね?それが私が悟に出会えた経緯。そこから私の全てが変わっていった。
そんな私の言葉は響くことも無くちら、と一瞬私の目を見て視線を外される。これは意地でも協力しない姿勢になってる。
どうすれば良いんだか。はーあ、とため息が出た。
暑いし、この場では泊まる場所とか無いし。お腹も減ったし。腹部の真ん前に悟が居るからお腹が鳴ったら笑われる。鳴る気配はまだないけれど。
『……帰りたいな』
「あっそ。思うだけならタダ、好きなだけ帰りたいって考えてたら?」
『待ってる人が居るんだけれどなー…』
ちら、と顔を私へと上げ眉を寄せてる。チッ、と舌打ちしつつ。態度が大変宜しくない。機嫌が悪いのが丸わかりだった。