第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
188.
──さっきまで秋だったのに瞬きひとつしたら季節が夏に戻ってた。
なんて不思議な事なんだろう?呪物って凄い力を持ってるんだなあ。奇妙な体験下の中で紛れもない夏の風物詩を嫌というほどに鼓膜に受け止める。そして生暖かい風も……。
携帯を取り出して覗き込めば不思議とさっきと変わらないまま。そして圏外であることもそのまんま。
夏に戻ったって言うのに携帯の日付は秋の月。そういう領域内とかで干渉されないっていうのなら納得出来るけれど。
『まずは呪術師を探す、そして近場の建物に入る……んだったよね?』
夏の今頃…いや、何月何日かすらも分からないけれど。リベルタに捕らえられたり悟と沖縄に行ったりしてたな…そんな甘くもあり苦くもある今年の夏の思い出。
とりあえず連絡する方法なんてない。人の気配とかも。ならばあの売地である建物に行ってカメラの呪物でも回収すれば戻れる方法を確保出来るって事。
そうと決まればこの祠から……。
『……やけに、』
しゃがんで見ればその祠は確かに傷んで居るけれど。そこまで劣化してない。
洪水だとか台風だとかで数ヶ月でやられるって可能性はそこまで高く無さそう。っていうと今年じゃない可能性もある。人為的に破壊だとかされたわけじゃないし、自然のままに劣化してたし…。
立ち上がり、周囲を確認して。のろのろと遅い速度でやって来る呪いを"怒髪天"を伸ばし、突き刺して祓った。森の中で燃えて落ちるも引火はしないし、そのまま来た道を戻る。とりあえず正面から虱潰しに行かないと。
強い呪霊が居るって話は聞いてないけど、警戒は怠らないようにしなきゃ。さっきみたいに呪い自体は居る……そう思いながら戻っていく。
さくっさくっ、と季節が変わってもまだ積み重なったままの杉の葉を踏みしめて進む。あちこちから蝉の鳴き声がする。杉以外にも細めの木が生えてて今は木陰で涼しいけれど木漏れ日の下に出れば眩しくて暑かった。
『水分とか小さいペットボトルでも良いからあればなあ~……』