第3章 呪術を使いこなす事
『祖母の家じゃないんだからここで一緒に寝るのはアウト、部屋で寝て。これは流石に事案っすよ?それから腕と足、拘束解いてよ。身動き取れない』
にや、と朝から元気そうに笑う悟はきっぱりと言い放った。
「やだね。いやぁ、キミってこうして眠るとね、ふかふかしててねー寝心地が良いんだ。もし今、この状態から逃れたいっていうのならさー…」
悟は朝から私で遊ぶ気満々だったらしい。続けた言葉に私は言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。
──"キミからキスしてみてよ"
今まで私にキスしようとガンガン攻めてきたワケだけれど、今度は引きで来やがった…!自分から受けようって事は私から行かないといけないって事。え、私が悟にキスしないといけないの…?
よいしょ、と悟は身を捩って更に近くに寄る。密着する体に、超至近距離の顔。握り拳が互いの顔の間にひとつ入るか、というくらいで自信満々に笑うと瞳を閉じた。
眠った訳じゃない。私を気遣って、という事かな。
「ほら、出来るモンならいつでも来な?気遣いの出来る悟クンが待っててあげるから」
『は?気遣い?誰が……っ』
どき。どき、どき……早鐘打つ鼓動が嫌でも分かる。目を瞑っててよかった、今の私絶対まっかっかだ。
これは離して貰う為。これは好きだからとか、そういうんじゃなくって今の拘束されている自分を開放して貰う為だから。そう言い聞かせて、勇気を出して少し顔を近付けた。
どき、どき……。
そっと自身も目を閉じて触れるか、の時だった。
くぅ…、という情けない音が聴こえて目を開けた。目の前の青も見える。そしてまた、主張する様に、くう~…という音が主張する。
たまらず私は両手で顔を隠した。
私の腹の馬鹿ぁ!お腹減ったのは知ってるよ、起きた時点で分かってるしっ!空気読んでよ!
自ら塞いだ視界の外で、クックック、と声を上げないように笑う悟。そのタイミングで手足が離れたので私は勢いよくベッドから転がり飛び出した。
ベッドには小刻みに震える山。
……めっちゃムカつくわー。
チッ、と私は舌打ちして、足音を大きく立ててカーテンを開け眩しい光を部屋に取り入れた。もう朝だ、とっとと部屋に帰って欲しい。