第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
ははっ、と短く笑って立ち止まり林の中を私が見えるように指差す彼は「あっちね」と。建物じゃないんだ、あからさまに一軒家が怪しいって思ったんだけどなあ…。
「まあ、とりあえず僕は途中までハルカと行動して、呪物の説明までは引率するよ。後で合流するからそれまでは頑張りんしゃい!」
『頑張りんしゃい……』
さく、さく、と枯れた杉の葉を踏みしめながらかろうじて道のような形跡を悟に続いて進んでいく。ただの林じゃない、一軒の建物が近くにあるって事もあり疎らにも呪いが存在してる。木の陰からのそのそと私に寄ってくる所を悟はねじ切って祓っていった。
そういう訳だから手持ち部沙汰な私は両手をポケットに突っ込んでただ目的地まで一緒に歩いていくだけ。まだまだ協力者は見えてこない。
さく、さく。
さくさくさく。
ただ言葉も無くしばらくの間は杉の葉を踏みしめる音だけが続いて、私がこれから行動を共にするであろう呪術師についてを悟に聞くことにした。
彼だけ知ってても私に情報が無いのはどうかと…、自分から見定める機会を得なきゃ。例えば協力的な相手なのか、それともバーサーカータイプなのか。呪霊と戦うわけじゃないって言うけれど危険であろう呪物に関する任務。背を預けられる人物なのかどうかを。
『……で、合流する呪術師ってどんな人?高専から一緒に来てないし、名前が出ないって事は私の知らない人って事だよね?』
知ってるなら名前を出せば良いのに出さないし。
二年なら真希だとか、京都なら東堂だとか。生徒ですらないのなら七海って言えば良いのにもったいぶるように悟は名前を口に出さない。
私を一度見て、進行方向を見ながらに何かを考えて居る。
「んー…そうだなあ。僕みたいなイケメンでー…生意気なガキンチョかなー」
『それなんて28歳児?』
「青姦すんぞ?」
にこー!と微笑むもんだから『ごめんなさい!』と即謝罪して、明るい口調の悟にその人物と悟を重ねた事についてを謝っておく。
イケメン、という事は男って事か。ガキンチョ、というのは未成年。京都でまだ会ってない人物か、それとも高専に通っていない呪術師……等級を"特別"と付く呪術師とか?
悟の隣に並んで杉の葉をさくさく踏みしめながらやや曲がりくねった獣道を進む。今の所変わったものは見えてこないけれど…。