第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
私は心がざわつくんだけれど。そうはいっても良くない記憶とかだったらどうすんのさ。
なるべくそうしたくないから、少しでも彼の思い出したいってその気持ちを無くさせようと私は最後に言葉で攻めた。
『髪降ろししてるんだから、私とキスしてるようで母さんとって事にもなるよ?』
「えっ、じゃあ僕、目でも隠したほうが良い?サングラスからアイマスクの格好良い悟君にしときますねー」
全然効いてないがな。
しょうがない、本人たっての希望だし。
「これは浮気じゃないからね、ハルカ」
傾く悟の体。
『"噛んでも良い?"』
「必要であればどうぞ」
そう、と言葉を漏らして口付けた。そしてかぷっ、と柔らかい悟の下唇に歯を立てる。
傷付けるようなキスをしたことが無い私にとっては悟に怪我をさせている、という罪悪感がある。鉄の味のする口付けはすぐに終わり、悟側から離れていった。
噛んだ部分、治さなきゃ…と眼の前、素足で私から数歩後ずさる悟を見る。下唇から滲む赤が痛々しい。
悟はアイマスクに手を当て、するする…、と外して目を見開く。凄く驚いてる表情。私が手を伸ばしかけたその時だった。
「は、ははっ……ぷ、はははははっ!そっか…、ああ、そういう事かよ…っ!
長年の違和感がようやく解消した感じだ、ああ、これは封印されてもおかしくないわ!」
荒い口調に思わず引っ込む私の手。
何か彼は腑に落ちたみたいで、興奮気味の悟はだんだんと落ち着いてきたのか、優しい眼差しをしている。
私には悟にどんな記憶が戻ったのか知らない。よほど重要な記憶だったらしく、彼は私にその記憶を教えてくれる事はなく。急遽、悟は「傑と外で食べてくるからハルカはお家でご飯食べてて。お土産にデザート買ってきてあげるから」と足早にどこかへ行ってしまった。
『……怪我、治す隙も無かったんだけど…、』
取り残さえたままに、"よほど大切な記憶が戻ったんでしょうね"と母の言葉。肉体も無いはずなのに置いてけぼりにされた私の背を母が優しく撫でてくれたような気がした。