第3章 呪術を使いこなす事
──呪術。
体に刻まれているものだと悟は言うけれど、見えるようになり記憶をやっと呼び起こされても分からないものは分からない。意識外の中で祓っていたというなら、その無意識を理解してその感覚を自分の意識で呪術を使えるようにしなくちゃいけない。
父親の腕と足は無意識化で私が式髪と引き換えに治療している、らしいし。
やっかいな事に、私は相手がいないとまず始まらないし、しかも負傷してないといけない。怪我をさせるだろう反転術式は溜め込んだ呪いを放出するという。
基本がなってない私にはそれすらも遠い。
小さい頃から無意識下でなんとなくで覚えていくものを今更なんてどうすれば良いっての…!
両手で古びたノートを持って立て、睨むように見る。
じーっと見ていると、視界が真っ暗になる。そして同時に顔に人肌。
「だーれだ?」
……聞こえてくるのは楽しげな男の声。
言わずもがな、該当する人物は私にはひとりしか思い浮かばない。なんだっけ…隣の部屋にたまに来る、とか言ってたっけ?合鍵作って。"ご"で始まって"る"で終わる人だ。
…というわけで。
『28歳児』
「ブー!」
頭をしゃかしゃか揺すられる。
あ、これ両手か。ノートを感覚で机に置き、両手でそっと自身の顔に触れる。
指が両目の上を覆ってるな。両手で頭を抑えながら目を覆ってるんだ、これ。
「だーれだ?」
『悟?』
「ブー!」
『五条悟』
「ブッブー!さんをつけろよデコ助野郎だブー!」
『はあ……?合ってんじゃん…、』
学生がよくやる悪戯をこの人がやってる。しかも正解なのにそれを認めず、最後にはさんを付けろというのでもう理解をした。
ここで私が、さんを付けて正解したとする。するとその先にはキスされるという事。それを分かってやったら自分から求めてない?とからかわれるとしよう、それは二段構えだ。
自分からキスを求めてる。そう思われかねないっていうのが既に2回も言ってるという事もあるし。
別に私は悟が嫌いって訳じゃないけれどさ……、この顔を覆う体温の主は表面上の恋人でしばらく過ごそう、という"遊び"であると私は分かっている。そう、理解しているからこそだ。
──本気に好きになったら泣きを見るのは自分。