第3章 呪術を使いこなす事
18.
『……っしょ、と!』
ぼすっ、と布の詰まったバッグが乗る。私がしばらく呪術高専に滞在する間に必要な荷物を車に積み終えた所だった。父はとても不服そうな表情だったけれども私がしばらく家に帰らない、春日としての呪術を使いこなす為…また、生きるためだと伝えれば仕方なく首を上下に振ってくれた。
パタン、と車のドアを内側から閉めて発車する。窓の外の五体満足な父を見てああ良かった、と思った。袖とかズボンは穴空いてるけれどね。
「怪我治ってたし呪術使えてたね!ねえ、どうだった?初めての呪術を使ったっていう感想は?」
荷物に挟まれてる私を、助手席の悟が振り返って口元が笑いかける。
初めてといっても使ったという実感が無かった。今は洗ってしまった、あの血だらけの手を思い出して自分の手を見る。
『何かを使ってるとかそんな感覚じゃない……夢中で、心配で…』
「うーん、無意識か。使ってるっていうか、どちらかっていうと補給かなぁ?」
補給?と手のひらから悟へ顔を上げた。
「キミのお父さんの呪霊による怪我。ああいうのを式髪で吸い上げてるんだ。一族の血故に無意識に使った、きっとどこかの髪がまた白髪化してるぜ?
このままわけも分からず吸い続けたら危険。だからしっかり学んで、無意識ではなく術式を使う!と意識して、そこから反転術式を覚えて使えるようにしなくちゃね……全部染めてしまう前に!」
『……うん、そうする』
悟はふと真顔に戻り、また口元に弧を描く。
「あと、心配だから接近戦も鍛えとこう、僕が相手するから」
『え』
接近戦。
色々教えてくれるのは良いけれどなんか嫌な予感がする。
悟はいつものように無邪気な口元だ。
「キミに一本取る毎に頬にちゅうね、10本で口で、100本分集まったらそうだなー、」
『待った、なんでそうなんの!?そうなるんだったら私、他の人が良い!あっ、だったら七海さんどうですか?体術出来ますか!?』
身の危険を感じてこの中で一番真面目な七海に話題を振る。変わらずハンドルをしっかりと握り、運転をしてる七海はルームミラー越しにこちらを見た。
「手が空いていたらご協力はします、が…五条さんどうしていつも以上に子供じみた嫌がらせをされてるんです?」