第12章 2.一虚一盈
思わず本名の「安中」を名乗る所だったが、平和島と名乗ることに成功した。
すると少数の生徒が「平和島…」「朝あの平和島静雄と一緒だった…」「兄妹?」とヒソヒソ話していた。
なんの関係も無いと言い張って平穏な学生生活を手に入れたいところだが、一緒に来ているのを目撃されている時点で無理だった。
何も言い返すことが出来ないスバルはそのまま席に座る。
(思ったよりやばいかも…。友達できるかな…)
「あー、張間、張間美香はおらんか」
すると1人の生徒が今日の1番後ろ奥の席を見るとみんながそちらの方を向いた。
よく見ると教室は今日が初日だと言うのに2席も空いている。
変なの、と思っていると教室の後ろの扉が開き男子生徒が入ってきた。
「張間美香」は明らかに女の名前だし、消去法でこの男子生徒はもう1つの空席の主だとわかる。
「初日から遅刻か、今自己紹介中だ。その場でしなさい」
男子生徒はこんな大遅刻をしているのにかなり落ち着いている様に見えた。
申し訳なさそうな素振りすらない。
「矢霧誠二です。よろしくお願いします」
矢霧誠二は言われた通りに自己紹介をしたが、席につこうともせず立ったままだった。
先生に席につけと言われたが「つきません」と答え、周りをざわつかせる。
「僕、学校に暫く来られないと思います。もしかしたらもう来ないかもしれません」
(は、は、はー!?何を言ってるのこの人…!?)
ここにいる全員、スバルと同じ事を思っている様で「はぁ?」という顔をしている。
すると矢霧誠二は「大事な事だからあなた達に付き合ってる暇は無いんです」と教室を出ていってしまった。
当然先生はそれを追いかけ、残されたスバル達はぽかんとしているしか無かった。
時間は数日前、スバルが臨也から高校受験の書類を受け取った辺りまで遡る。
折原臨也の家でバイトとして居候していたスバルと同じくこの世界に来てしまった少年、吉川るいは退屈していた。
スバルを探すと言っても広い池袋、早々自力で見つけられるわけがない。
臨也の家で事務的な手伝いをし、客に茶を出したりなどの仕事以外ではスバルを探す。
その繰り返し。
るいだって魔法少女をしていたことを除けば普通の高校生なので、友人や前の生活が恋しくなってきていた。