第8章 新たな日常
「じゃあ仕事すっから、気ぃつけろよ」
静雄はスバルの頭にポンと手を置くとそう微笑んで仕事に向かっていった。
腕以外は完治したのだが頭の傷は縫っていたので、今日は新羅のところへ抜糸へ行く約束をしていた。
セルティが迎えに来てくれると言ったが、池袋の街を早く覚えたいので道だけ教えてもらって自分で行くことにした。
という理由もあるが、昼間のセルティはさすがに目立つのもある。
(いい天気だなぁ)
近頃の昼間はずっと家に居ては運動不足になるので、出来るだけ池袋の街を歩いて散策をして過ごす。
「よし、じゃあやるからじっとしててね」
問題なく岸谷家に到着すると直ぐに抜糸に入った。
糸が抜かれる瞬間にピリッとした痛みが走りスバルが「いっ!」と言っている間に終了し、傷跡に傷テープが貼られた。
「はい終わり。腕の方はもうちょっとかかるだろうね。リハビリもあるし」
テープが貼られた上から傷を撫でながら「ありがとうございます」と微笑む。
スバルは「お構いなく」と言ったが新羅は「お構いするよ〜」とお茶を入れてくれていると、セルティが帰ってくる。
『スバルちゃん。静雄との生活はどうだ?』
スバルは直ぐに帰るつもりだったが、新羅がお茶を入れてくれたので暫く話すことにした。
静雄はセルティにとって良き友ではあるが、静雄が誰かと住むということがあまり想像できない。
「そうですね…。怪我の負い目があるとはいえとても良くしてもらっています。本当に」
いくら自分が怪我をさせてしまったとはいえ、何があるかわからないのに他人のしかも女子高生を家に居させてくれるなんて感謝しかなった。
「喧嘩とか一緒にいる時でもよくあるんですけど、本当に優しい人です」
静雄の事を思いニコニコとしているとセルティは新羅と無い顔を見合わせる。
『まさか、惚れたとかじゃ…』
スバルが年頃で、独身の男性と1つ屋根の下で生活している為にセルティは恋を心配した。
スバルは手を口元にあてて考える。
「…優しくて、素敵な人なんですけど。やっぱり兄っていうとこんな感じなのかなってくらいですかね…」
そもそも静雄は仕事で忙しくしているのであまり会話が無いのだ。
なので好きと言えるほどのことはあまり知らなかった。