第16章 農業生活十六日目
「あの・・・そろそろいいだろか?」
私は驚いて声を上げて、リヒトにしがついた。
「ジ、ジルドさん・・・いつからそこに・・・。」
「あ~、まぁ・・・リヒトの方は気付いていたみたいだけどなぁ。」
ジド目でリヒトを見るジルド。リヒトはいつもの笑みを貼り付けたまま、肯定するでも否定するでもない。
「作業、掛かっていいか?」
「はい。お任せします。」
改築の間、私たちは畑を回った。今日はアスパラの収穫。そして、今日とて齧っている私。その傍にしゃがみ込み、口を開けるリヒト。
仕方ないので、そのまま齧ったアスパラを口に入れた。新しいものをと思ったけれど、きっと、私が手にしているものを所望されると思ったから。
「ん、甘い。美味しいね。後で湯搔いて食べようか。」
素材の味を味わうのに私も賛成だ。抹茶塩でもマヨネーズでもいい。でも、その前にそのまま食べたい。
すると、視界の先に人影が入って来た。二人で顔を上げれば、そこにいたのはルドだった。
「仲がいいな。リヒト・・・良かったな。」
「はい。」
「俺の力不足で、色々とすまなかった。リヒトからは、苦言貰ってたのに阻止仕切れなかった。」
ルディの兄貴分で、幼い頃から面倒を見てきたのだろう。少し憔悴しているように見えるのは、気のせいではないと思う。
「出所しても、ちゃんと目を光らせてくれる人がいるから心配しなくていい。莉亜には、絶対に近付かせない。」
そこは、私とリヒトの名前が出ても良さそうだと思うけれど・・・でも、リヒトのことを知っているルドだからこそ、そう言ったのだと思った。
「莉亜、リヒトを幸せにしてやってくれ。お前さえ傍にいれば、リヒトは幸せだろうから。」
「よ、喜んで?」
私ってば、もっと言い方あったんじゃ・・・。でも、ルドはやっと笑ってくれた。
「ルドさんは、結婚は?」
「えっ?あ、お、俺は・・・。」
突然、狼狽えだした。そうか・・・思い人がいるんだね。
「そろそろですね?彼女がこの村に戻って来るのは。」
「あ、いや・・・その・・・。」
分かりやすい狼狽ぶりだ。そっか、リヒトも知っている人ってことなんだ。ルドは優しくていい人だ。上手くいくといいな。
「莉亜、ルドさんのこと見過ぎ。」
「えっ?」
ルドがいきなり声を上げて笑い出した。こんな笑い方も出来るんだ。