第16章 農業生活十六日目
朝からリヒトの微笑みが尊い。生きてて良かったって思わせてくれる。朝からリヒトにキスのおねだりをされて、私は完全に浮かれてしまっていたんだと思う。
リヒトに付けてはいけないスイッチを付けてしまい・・・朝から、更なるリヒトのおねだり攻撃で撃沈した私がいた。
朝食の時にも、絡ませられた指先。時折、指先にキスされるほど甘い空間。まるで、新婚生活みたいだ。って、本当に新婚生活を送った経験はないけれど。
「相変わらず、お前たちは仲がいいなぁ。見ているこっちが、胸焼けするぜ。」
二人揃って、ケビンに挨拶する。
「でも、大変だったな。大丈夫なのか?いや、大丈夫なんだろうな。そうでなければ、この状況は現実逃避か?」
「大丈夫ですよ。この家を改築して、ここでお店をすることになりますから。」
「あぁ、聞いた。まぁ、ジルドに精々甘えておけばいいさ。」
でも、ジルド半泣きだったよ?
「莉亜はゆっくり食べてて。ケビンさん、手伝います。」
リヒトは私のホッペにキスを残して、ケビンの手伝いに行った。ケビンをさっさと見送ったと思ったら、また戻って来て私にハグするリヒト。朝からべったりである。
何も動かないまま、じっとしているリヒトを見上げる。
「どうしたの?あ、食べさせて欲しい?いいよ、勿論。」
勝手に提案して、勝手に結論を出しているリヒト。そして、私はリヒトに餌付けされている。
「ねぇ、ジルドさんはいつ来るの?」
「ん?あぁ、もうそろそろじゃないかな。他の仕事を後回しにしてでも、優先してくれるみたいだし。」
踏んだり蹴ったりだな・・・ジルド。
「もし・・・もしもだけど、私が提案してなかったら、リヒトはどうしてた?この村から・・・出て行ってた?」
「僕をそこまで薄情者にしたいの?」
「そういう訳じゃないけど・・・。」
優しく髪を撫で、頬に口付けるリヒト。
「そうなったとしたら、僕は莉亜を無理矢理にでも連れて行ったかな。ここから離れたくなくて泣き叫ばれたとしても、きっと、手離さなかったと思う。ごめんね?こんな我儘な僕で。」
「ううん。」
「でも、足掻けるだけ足搔くつもりだよ。莉亜がこうして僕の傍にいる。僕にとって、それが一番大事だから。」
キラ~ンッ!!とした、眩しい微笑み。