第15章 農業生活十五日目
リヒトは幼い頃から、こんな思いをたくさんして来たのだろう。だから、執着しなくなったのだと、期待しなくなったのだと思った。
「また・・・全て無くなったな。」
「リヒトは諦めなくていい。まだ、諦める時じゃない。」
「莉亜?」
私は笑顔で、リヒトを見た。リヒトは全てを諦めてきた訳じゃない。だって、料理人という夢はちゃんと続いていたんだから。私は家を見た。私が頑張ってここまで大きくしてきた家だ。
「うん、改築しよう。ここで、お店をしようよ。移動も無いし、食材の配達だって気にすることもない。」
「でも、この家は莉亜の家だよ。」
「私たち、でしょ?だって、私と結婚するんだよ。だったら、リヒトの家でもあるんだから。言ったでしょ。私がリヒトを幸せにしてあげるって。」
リヒトの目に色が戻った。
「本当に・・・莉亜は男前だな。・・・改築か。だったら、ジルドさんに謝罪の証としてやって貰おうかな。断われる訳無いだろうし。」
リヒトは何やら、考え込んでいる様だ。
「うん、キッチンをもっと広くして貰って冷蔵庫も追加だな。それに、部屋も壁を無くして一部屋にして・・・後は子供部屋も必要だ。」
何か最後に聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたけれど、突っ込んだら負けだ。でも、元気が出たようで良かった。
「莉亜。」
「うん?」
「ありがとう。僕に未来をくれて。」
私は明るく頷いた。そして、私の腹時計が・・・。
「手伝ってくれる?朝食にしよう。」
「うん!」
辺りの煙の臭いは薄れていて、いつもの如くテラスで食事。火事の事なんて無かったかのように、私たちは仲良く・・・そう、仲良く食べさせ合っていた。妙なアドレナリンが出ているようだ。
が、そんな時に慌てたカミルが現れた。イチャイチャしている私たちを見て、面食らっている。
「あ、カミル。おはよう。お店、燃えちゃった。」
(軽っ!!)
「聞きました。その・・・今後、どうするんですか?」
リヒトはカミルに今後の計画を伝えた。
「もし、カミルが街に戻りたいって言うなら引き留められないけど、出来るなら僕はカミルと今後も一緒にお店を遣りたいって思ってる。」
カミルの表情が、分かりやすいくらいに変わった。喜んでいる顔だった。それほど、リヒトのことを尊敬し敬愛しているのだろう。