第15章 農業生活十五日目
明け方、騒々しく玄関からリヒトの名を呼ぶ声が聞こえた。
「リヒト・・・。」
「莉亜はまだ寝てていいよ。行って来る。」
まだ、眠気で微睡んでいる私だったけれど、何か焦げ臭い匂いで目が覚める。着替えて玄関に出れば、誰の姿もなかった。外へ出てみると、辺りは煙で充満している。
そして、明るく見える方向を見て目を見張った。慌ててその方へと走っていく。それは、もしもではなく・・・リヒトのお店を包んだ炎の明るさだった。
近所の人が気付いた時には、もう手の施しようが無かったらしい。私は周りにいる住人の中を探し回った。
そして・・・見つけた。一番前で、燃え盛るその光景を見ていたリヒトを。そんなリヒトに声を掛ける。
「リヒト・・・。」
「全部・・・燃えちゃったな。」
また、抑揚のない声色。リヒトの顔は、ただ無表情だった。こんなことがあったのに、悲しむでも怒るでもない。ただ、流れる映像を見ているだけのよう。
暫くして、太い柱と一角の壁、そして所々の屋根が焼け残っただけだった。ただ、立ち尽くすリヒトを私は抱き締めていた。
そんな中、住民たちの中から悲鳴が上がった。振り返れば、ルディを殴り飛ばしたルドがいた。いつもは穏やかな人なのに、激高している様に見えた。
「お前は何ってことをしたんだ!!お前は棟梁の顔に泥を塗ったんだぞっ!!!」
その言葉で、住人たちは気付かされた。この火災が、ルディによってもたらされたものなのだと。周りからの好奇や侮蔑の目がルディに注がれる。
当の本人のルディは、ただ殴られ地べたに這いつくばったまま泣いているようだった。想像以上の出来事に、戸惑っているのか後悔しているのか分からないが。
そして、ジルドが現れルディの襟を掴み、リヒトの元へと連れてきた。目の前で膝を折り、ルディの頭を地面に押し付けながら自身も頭を下げた。
「ウチの愚息が申し訳ない。この通りだっ!!!」
リヒトの表情は変わらなかった。私の手を引き、何も言わないまま歩き出した。一度振り返ると、ジルドたちは土下座したままだった。
家の敷地内に入ると、リヒトは立ち止まった。
「・・・奪われるんだ。」
「えっ?今、何って言ったの?」
「僕が大事にするものは、いつも誰かに奪われるんだ。・・・ごめんね?莉亜が頑張って作り上げたものまで無駄にしちゃった。」