第14章 農業生活十四日目 (R指定)
リヒトは、それ以上何も言わなかった。
「ねぇ・・・リヒト。」
「うん?」
「今の観光客の女の子のこと、可愛いって言ったよね?リヒトの好みは、ああいう女の子がタイプ?」
私の問いかけに、リヒトは嫌そうな顔をした。
「誤解。ルディの好みが、可愛い子ってこと。僕がそんなこと思う訳ないよ。」
それはそれで酷いいい方だと思う。確かに、見た目は可愛い女の子だった。
「ちょっと心外だけど、ヤキモチ妬いてくれたと思えばチャラかな。でも、覚えてて。誰が可愛いとか綺麗とか、僕はどうでもいいから。」
「リヒトの好みって・・・。」
「莉亜。それ以上でも以下でもない。」
物凄く簡潔で淡泊で・・・なのに、ちょっと嬉しい。でも、女の子のことで向ける表情ではないと思う。あの嫌そうな顔は。
複雑な顔をしていると、背後から騒がしい声が聞こえてきた。リヒトに手を引かれ、物陰に隠れた私たち。そして、その声はさっきの女の子のものだった。
幸いにも、私たちのことは気付かれなかった。ルドが同伴しているけれど、平謝りしているように見える。気の毒としか言いようがない。
「昔から、ルディの尻拭いばかりさせられてる。」
「そう・・・。女の子、どうするんだろう?」
「さぁ?僕たちには関係ない。で、見てないよね?」
意味が分からず、リヒトを見上げる。
「見てないって、何を?」
「あ、今のは忘れて。さ、行こうか。」
「え、リヒト?何のこと?教えてよ。」
幾ら尋ねても、話してはくれなかった。意外に頑固だ。
「ほら、向こうにポップコーンがあるよ。食べない?」
「食べる。」
即答の私。ポップコーンは、色んな味がブレンドされているものだった。ちょっと楽しい。そんなことを思っていると、リヒトがこめかみにキスする。
「リヒト?」
「あんまり可愛いい顔しているから、つい?」
だから、どうしてそんな爽やかに・・・。
「少しずつ、住人も増えると思う。そうなった時、この村の良くない部分が改善されるといい。」
「えっ?」
「僕にも頂戴。」
リヒトが口を開けたので、口の中に入れてあげた。素敵な笑顔を見せてくれて、さっきのリヒトの言葉の意味を聞き返すことはしなかった。